大久保からすれば、福地の立ち居振る舞いはいかにも軽薄だった。福地は自分が嫌われている理由は承知のうえとして、こんなふうに大久保に問いかけている。
「私は事に際してすぐに意見を申しのべる、つまり即知(その場ですぐに働く知恵)をもって得意といたしておりますが、閣下はそれを危険のこととして退けられる。ですから、もし閣下に容れられようとするなら、即知をひかえることと思う」
福地は、その場の空気を瞬時に察して、適切な言動をするのが得意だった。だからこそ、皆には気に入られているが、大久保だけは面白くない顔をしている。どうしてもそのことが気になったのだろう。福地が率直な思いをぶつけると、大久保も口を開く。
「そのとおりだ。その秘訣を知っていながら、君はなぜそれを実行しようとせぬのか」
「即知は天与の才」と言ってのけた強心臓の福地
やはり福地が思ったとおり、当意即妙な言動がかえって信用できないと、大久保は感じていたようだ。大久保の質問に対して、福地はこう答えた。
「即知は私にとっていわば天与の才であります。閣下の知遇を得るということのために、天与の才を隠して愚をよそおうのを潔しとしないのです」
瞬時に状況をつかんで、巧みに切り返す。そんな「即知」について、福地は「天から与えられた才能」だと考えていた。大久保に気に入られるためだけに自身の才能を捨てることはできない、と言ってのけたのだから、なかなかの強心臓である。
福地がいったい、何をしたかったのかはよくわからない。大久保に対して「自分はあなたに気に入られない理由はわかっているが、私はそれが強みだから直すつもりはない」とわざわざ宣言したに過ぎない。大久保からすれば、そんな自意識過剰なところも鼻についたのではないだろうか。
それでも大久保は福地に対してアドバイスを送っている。
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