「休めない日本人」いまだ生み出す抵抗勢力の正体 小室淑恵「現役時代の休み方が定年後を決める」
実はストレス状況下では、アドレナリンやコルチゾールなどの抗ストレスホルモンが分泌されることで、一時的にパフォーマンスが上がっていることが多いんですね。そうなると、ますますストレスを実感することが難しく、むしろ「調子がいい」とすら感じるので、注意が必要です。疲労感が伴わないまま、密かに進行する疲労というのがいちばん厄介です。
小室:このアドレナリンによる罠も、抵抗勢力が根強く存在する理由の1つです。
DawsonとReidの1997年の研究によると、人間の脳が集中力を発揮できるのは、起床から13時間以内で、それ以降は酒気帯び運転と同程度の集中力しか保てません。
さらに怖いのは、アドレナリンやコルチゾールによって、起きてから24時間を超えると集中力が一時的に上がってしまう点です。
ここで一時的に仕事が進んだ感覚を経験すると、それが強い成功体験になってしまいます。実際には朝起きて13時間から24時間までの11時間は、著しく生産性が落ちているわけですから、トータルで見た時には企業にとっても本人にとっても大きなマイナスなのですが、最後の数時間の記憶が、長時間労働を成功体験にしてしまい、休むことを軽視しがちです。
そうした背景もあり、私は7時間以上の睡眠時間確保を目指す「勤務間インターバル」を政策提言しています。
ストレスと密接な関係がある睡眠時間の確保を、法律で仕組み化することで、自覚できていないストレスにも対策可能にすることが狙いです。
抵抗勢力が押し黙る、データの正体
鈴木:小室さんは「一時的に仕事が進んだ感覚を経験した」抵抗勢力の方々に遭遇したときは、どのように向き合っていますか?
小室:2021年6月科学雑誌『ネイチャー』に、現役時代に 6時間以下の睡眠を続けた人は、定年後の認知症の発症率1.3倍、というデータが掲載されました。このデータを管理職研修などで紹介すると、場の空気が変わります。人生100年時代ということは、約40年も続く定年後の人生です。そのQOLを決めるのは、現役時代の働き方・休み方なのだ、ということですね。