コロナ禍で変わった「3年で3割が辞める」の実情 労働市場の流動化が進むことによるプラス効果も

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一見するとそこまで変わらないように見えるが、最大の2004年と最小の1992年の差は約1.5倍となっている。新入社員が100名入社する企業に例えると、離職率が低い年度は3年以内に24人しか辞めず、高い年度だと37人が辞める計算になる。これは企業側にとっては無視できない差だ。

3年以内離職率のグラフを見ると、離職率が「高い時期」と「低い時期」には一定のトレンドがあることがわかる。多少の違いはあれど、離職率のトレンドは次のようになる。

好景気の時:3年以内離職率は上昇
不景気の時:3年以内離職率は低下

厳密には、その時の「求人数(仕事の数)」と「求職者数(仕事を探している人の数)」の状況によるが、ざっくりトレンドをつかむという意味であれば、「好景気だと新入社員は辞めやすく、不景気では新入社員が辞めづらい」となる。過去のデータを見ると、コロナ禍で不景気となっている現状では「3年3割辞めるは減少傾向」となる。

コロナ禍で激変した「普通の働き方」

コロナ禍によって特に変わったことの一つに「働き方」がある。コロナ禍以前は「リモートワークできる職場」というのは、それだけで価値が高く、多くの人が転職先を選ぶ条件にしていた。

リモートワークは、採用する側の企業にとって「武器」だったが、現在は「リモートワーク可」とうたっても、以前ほどのアピール力はない。しかし、これはあくまでも「珍しくなくなった」だけであって、リモートワークできないことが「転職理由になりうる」とも言える。

総務省の「テレワークの実施状況」によると、もともと17.4%だったリモートワーク実施率は、1回目の緊急事態宣言によって56.4%まで上昇している。ただ、2回目の緊急事態宣言では38.4%に留まっていることからも、恒久的なリモートワーク環境への移行は、半数以上の企業で進んでいないことがわかる。

また、選考や営業活動においても、コロナ禍でオンライン化が進んだ印象はある。オンライン面談や商談にしても、コロナ禍以前は「相手を軽んじている」と思われ敬遠されていたが、コロナ禍で必要に迫られて導入された。そして実際にやってみると、相手を軽んじているわけでもなく、むしろ移動コストが削減されることから、採用や営業現場で好意的に導入されている。

結局、リモートワークも面談や商談のオンライン化も、慣れの問題だったことがわかる。慣れてしまえば、導入メリットを享受したことで、元には戻れない。そのため、このような働き方に柔軟性を持っている会社では、「3年3割辞める」は減る傾向にある。しかし、逆にリモートワーク、オンライン化を進められない職場の退職率は上昇する可能性がある。

業態上、オンライン化が難しい職場があることも理解している。だが、中には「コロナ禍以前の職場にただ戻りたい」と考える会社もある。そのような理由でオンライン化をやめてしまうと、一度便利さを知り、慣れてしまった社員は、若手社員に限らず、中堅、ベテラン社員ですらも離れてしまう可能性がある。

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