隠れた名門、「ホテル龍名館」の秘密 明治の文化人が愛した老舗は何度も変身
東京駅八重洲北口から徒歩3分という利便性の上、ホテルの便利さと旅館の快適さを味わえる「ホテル龍名館東京」は、国内外の旅行者に人気がある。さらにモノレールが東京駅まで延長されると、羽田空港へのアクセスもいっそう便利になる。
「外国からのお客様は4割くらいですね。2020年に開催される東京オリンピックを狙って、周囲では新しいホテルの建設も進んでいます。そうしたホテルとはサービスの面で差別化を図りたい」(敏男氏)
実は「ホテル龍名館東京」の稼働率は9割にものぼる。人気の秘密は、顧客管理システムによるきめ細かなサービスだ。ロビーにはお香の匂いがほのかに漂い、茶室を備える客室でお手前を開くことも可能だ。
経営企画・マーケティング部の浜田裕章氏はこう述べる。
「うちは3日に1度お泊りいただくお客様もおられます。ご予約をいただいたら過去のデータをもとに家具の入れ替えを行なったり、タオルなどアメニティの数量や種類を調整するなど、そのお客様のお好みにあわせてお部屋を整えます」
かつては女将が一人ひとりの顧客の好みを覚えていたものだが、いまでは近代的な顧客管理システムにとって変わっている。
「ホテル立ち上げの際に、当時建て替え中だったパレスホテルの従業員に来てもらいました。その時に教わったサービスの利点が、現在のホテルの基盤となっています」(裕章氏)
旅館としてのアイデンティティは保持
しかし「おもてなしの心」は創業以来変わらない。昨年8月に本館は全9室スイートルームのラグアジュリーホテルに改装されたが、各部屋の扉には創業当時に使われた荷札をモチーフに作られたもの。バスルームの信楽焼の浴槽では、昔ながらの旅館でのくつろぎとぜいたくとが味わえる。
そのような精神を体現したシンボルを、本店の敷地に見ることができた。
それは、観音坂から入ってすぐ左手に立っている槐(えんじゅ)の木だ。槐は生育すれば10メートル以上にもなり、「植えると出世する木」として中国では神聖木とされている。関東大震災で焼け焦げたものの、新芽を出したこの木の生命力に当主がいたく感動し、本館を建て替える時にもそのまま残されたという経緯がある。
「万緑の槐、百年の店を守る」
3代目夫人の孝子氏が詠んだ句には、木の生命力への感動とともに家業繁栄の願いが込められている。
龍名館は創業130年を迎える2029年に、本店を100室の高層ホテルに建て替える予定。時代に応じて形は変わるが、その精神は槐の木とともに歴史となり、後世に伝えられていくだろう。
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