本当に「クソどうでもいい仕事」を根絶できるか 斎藤幸平氏と考える「働く人に優しい経済」の形

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「新しい国家をつくる」ハートランド構想について、提唱者である江戸川大学教授・荒谷大輔氏と、『人新世の「資本論」』の著者、東京大学大学院准教授の斎藤幸平氏が対談(撮影:今井康一)
前回の記事(僕たちは「クソどうでもいい仕事」を根絶できる)で、資本主義の抱えるさまざまな矛盾を解決するために「ハートランドという新しい国家」をつくることを提唱した、江戸川大学教授・荒谷大輔氏。
そんな荒谷氏が今回、その構想を伝えた相手が、『人新世の「資本論」』の著者である東京大学大学院准教授の斎藤幸平氏だ。資本主義の下、現代人が無限の経済成長を追求したせいで、環境危機を引き起こし、地球を人間が住めない場所にしつつあると指摘する斎藤氏は、荒谷氏のハートランド構想をどう受け止めているのか。
2人の対談の模様をお伝えする。

ハートランドは21世紀型のプロジェクト

斎藤:国家に取って代わる共同体をデザインするという話は、改めて聞くとスケールが大きいですね(笑)。

前回の話をまとめると、「ハートランド」という政府のような基盤システムと、そこでの実際の活動の場となるDAO(分散型自律組織)というコーポラティブ(=協同組合)をつくるという試みだと私は理解しています。

荒谷:そうですね。まさにそういった構想です。

斎藤:ハートランド構想のユニークさというのは、一時期流行ったティール組織のような企業レベルの改革で終わらずに、近代の民主主義や国家のあり方の刷新を念頭に置いて、より大きな議論を展開しようとしている点です。そのために、これまでの共同組合や地域通貨の限界を乗り越えるべく、ブロックチェーン技術を取り入れようとしている。これはまさに21世紀型だと言えるでしょう。

荒谷:ありがとうございます。21世紀型と言っていただいたところでお聞きしますが、現段階で実施されているコーポラティブ・モデルには、問題があるとお考えでしょうか。

斎藤:そうですね、現状、協同組合はどうしても規模の面で大企業には勝てません。しかも民主的な決定を重視するため、意見の調整に時間がかかり、したがって生産性も下がる。

結局、資本主義の中で生き残るために、規模を大きくしつつ、企業の競争力を高めようとすると組織内の民主主義が機能しなくなって、普通の企業とあまり変わらなくなってしまいます。例えば、日本でも馴染み深い多くの生協は経営主義に陥っている面があります。

そんな中今年、労働者協同組合法が日本で施行されます。労働者が自分たちで出資して、経営もするという企業形態で、私も応援しているのですが、これはいわばローテクなDAO1.0ですね。

DAO1.0はどうしても生産性が低いため、協同組合を育てるためには国家による低金利融資、助成金、税制面での優遇が必要になるでしょう。そうなると、大企業から税金をとって、それを協同組合に再分配することになる。逆に言うと、そこまでしないと協同組合が育つのは難しいかもしれない。

荒谷:なるほど。

斎藤:これがボトムアップ型の分散的なコーポラティブ・モデルと、既存国家の下でのトップダウン型の税制改革の2軸が生み出すジレンマです。資本主義を乗り越えるために、巨大化する協同組合が資本主義の論理に取り込まれていく一方、水平的組織を拡大するために国家権力が増大していくという2重のパラドックスと言ってもいい。

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