今なぜ?コロナ世代の「女性運動」が共感呼ぶ理由 従来と違う「やさしいこぶしの振り上げ方」

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共感は道内の他市や他県の母親グループに広がり、与党の女性国会議員も動かした。3月4日、NHKが「政府が個人申請を可能とする方針を固めた」と報道。同月26日、個人申請の運用がスタートした。

更科は言う。

「子育ては自己責任と言われ、それが分断を生んできた。休めない母の思いを丁寧に聞き、休まざるをえない母の思いを丁寧に説明する。会社を責めるだけでなく、会社が助成金を申請しにくい環境を変える。そんな当たり前を積み重ねる運動の必要性を実感した」

若い女性たちがコロナ禍で政策転換を成功させた原動力は何なのか。

2015年の安保法制反対運動の中で結成された「市民連合」の若手旗手とされる菱山南帆子は、30代の保育士だ。菱山が上げる2つのキーワードは「#MeToo世代」と「やさしいこぶしの振り上げ方」だ。

「#MeToo」に背中を押された世代

2017年、フリージャーナリスト、伊藤詩織が自身のレイプ被害をその著書で明らかにし、2018年にはテレビ朝日女性記者が財務省幹部によるセクハラを公表した。世界的なセクハラ告発運動「#MeToo」が、日本でも盛り上がった。「叩かれながら告発を続けた同世代の女性の姿に背中を押されたのが私たち『#MeToo』世代」と菱山は言う。

その交流の中で、24時間保育所に子どもを預けて働く風俗・水商売業界の女性たちの実情も知った。保育士として衝撃を受けた。コロナ禍は、そうした接客業界や、飲食業界など女性が多く働く職場を直撃した。

困窮者支援の相談会が始まった。だが、DVやセクハラの被害に遭い、男性が多い相談会場には近づけないという女性は少なくなかった。そんな女性も安心して来られるよう、2021年3月、労組の活動家や専門職の女性たちが「女性による女性ための相談会」を立ち上げ、菱山も参加した。

菱山は保育ブースとPR担当を買って出た。テレビや新聞に接しにくい路上の女性にも情報が届くよう、ツィッターでの情報拡散を主導。夜にはチームで歓楽街の24時間保育所を回り、チラシを置いてくれるよう頼んだ。

相談会には、非正規労働者、DV被害者、シングルマザー、風俗業界で働く女性、性的少数者など、さまざまな人が来た。「自分の言葉に初めて耳を傾けてもらった」と言う女性もいた。花を飾り、カフェや物資提供場を設けて、相談する側とされる側の垣根を取り払う工夫をした。相談に来た女性が「自分も何かしたい」と、次には運営側に回った。

「上から目線で『女性を救う』のでなく、問題解決へ向けて同じ土俵で話せる場所ができた。社会運動でも上下関係に違和感を抱いてきた女性たちが、従来型の抗議活動とは異なる『やさしいこぶしの振り上げ方』を編み出した」と菱山は言う。

「女性活躍」のかけ声の直後にやってきた、コロナ禍での女性の困窮。その落差の狭間から、新しい世代の女性運動が生まれ始めている。

竹信 三恵子 ジャーナリスト、和光大学名誉教授

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たけのぶ みえこ / Mieko Takenobu

東京生まれ。1976年、朝日新聞社に入社。水戸支局、東京本社経済部、シンガポール特派員、学芸部次長、編集委員兼論説委員(労働担当)などを経て2011年から和光大学現代人間学部教授・ジャーナリスト。2019年4月から現職。著書に「ルポ雇用劣化不況」(岩波新書 日本労働ペンクラブ賞)、「女性を活用する国、しない国」(岩波ブックレット)、「ミボージン日記」(岩波書店)、「ルポ賃金差別」(ちくま新書)、「しあわせに働ける社会へ」(岩波ジュニア新書)、「家事労働ハラスメント~生きづらさの根にあるもの」(岩波新書)など。2009年貧困ジャーナリズム大賞受賞。

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