今なぜ?コロナ世代の「女性運動」が共感呼ぶ理由 従来と違う「やさしいこぶしの振り上げ方」

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2021年2月7日、札幌市のPARCO(パルコ)前目抜き通りで、2児の母、武藤千秋(仮名、20代)はマイクで呼びかけた。

「2月28日にここ札幌から、子育て世代のみんなで勝手に『#子育て緊急事態宣言』を発出します」

1年前の2020年2月27日、アパレル関係の会社で販売担当のアルバイト社員だった武藤は、3月からの突然の一斉休校・休園措置をニュースで知った。コロナ休校の子の保護者に有給休暇を補償した企業には「小学校休業等対応助成金」(休校等助成金)が支給されると聞き、会社に申請を求めた。だが会社は認めず、武藤は「さっぽろ青年ユニオン」に駆け込んだ。

ユニオンには同様の相談が相次いでいた。岩崎唯委員長、更科ひかり執行委員ら30代女性のメンバーが武藤を支援して交渉に入ったが、決裂した。会社は、「助成金制度を使わなくても違法ではない」「同じ子育て社員から、自分は無理して出社しているのに一部の人だけが有給で休むのはずるい、という声が出る」と主張した。

夫は収入が不安定な自営業で、武藤の定期収入は家計に不可欠だ。だが失業後、仕事は見つからず、いまも不定期な深夜パートなどでしのぐ。政府の責任による措置なのに対策は企業任せ? 納得できない武藤とともに、更科らは個人でも申請できる「休校等支援金」要求に乗り出した。

だが、賛同は広がらなかった。壁は、会社の主張にもあった「ずるい」論だった。「子どもにしわ寄せがきていても休めない母」からの批判で、「困窮しても休まざるをえない母」は声を出せない。

「オレのせいでやめたんだよね……ごめんね」

「休まざるをえない母」への共感の輪を広げることで、「休めない母」も休みたいと声を上げられる空気を作り出せないか。その一歩が、パルコ前での武藤の呼びかけだった。

呼びかけの中で、武藤は次のような息子とのやりとりを披露した。

助成金の期限の2020年3月末を控え、あきらめようかと思っていたら、7歳の息子が言った。

「ママ、好きだった仕事、オレのせいでやめたんだよね……ごめんね」

あきらめたら息子は自分のせいと思い続ける。息子のせいではなく、子育てしながらでも安心して働ける仕組みの不備のせい、と子どもに伝えたい。だからあきらめない、と。

岩崎委員長は、この映像を即日ネットに上げた。「あなたのせいではないと伝えたい」という訴えが共感を呼び、「#子育て緊急宣言」を一斉につぶやく3月1日ツイッターデモは、目標件数を超えた。

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