日本に中国の影響力工作が及ばなくなった理由 戦後の日中経済史を振り返って見える変化

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歴史の皮肉とも言えます(写真:barks/PIXTA)
米中貿易戦争により幕を開けた、国家が地政学的な目的のために経済を手段として使う「地経学」の時代。
独立したグローバルなシンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)」の専門家が、コロナウイルス後の国際政治と世界経済の新たな潮流の兆しをいち早く見つけ、その地政学的かつ地経学的重要性を考察し、日本の国益と戦略にとっての意味合いを、順次配信していく。

中国の影響力工作は日本にあまり及んでいない

近年、中華人民共和国(以下、中国)による海外への影響力工作について言及されることが多い。他国に対してさまざまな手段を用いて影響力を行使し、自国の政策や価値観に沿うように誘導することは多くの国が行っている。しかし、中国が進めているのは、自国の体制モデルの優位性を示すことによって、自国の価値観に同調させようとするのではなく、情報工作や買収を通じて、世論の分断を図り、自国に有利な戦略環境を作りだそうとするものである。

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こうした影響力工作は、他国を惹きつけることで好意的な見方を醸成しようとするソフト・パワーと対比してシャープ・パワーと呼ばれる。国家の社会構造に鋭い針のように食い込み、民主主義的な価値観を毀損するものとして警戒されているのである。中国によるシャープ・パワー行使の実例として、しばしば挙げられるオーストラリアでは、中国系企業や移民を軸とした影響力工作が、首相や外相級の主要政治家や政党にまで及んでいたことが明らかになり大きなスキャンダルへと発展した。

ところが、興味深いことに日本に関しては、こうしたシャープ・パワーによる影響力行使の成功例をあまり聞かない。

内閣府が行っている外交世論調査(「『外交に関する世論調査』の概要」2022年1月)によると、「今後の日本と中国との関係の発展は重要と思うか」という問いに対して、回答者の78.7%が重要であると答えている。その一方で、中国に「親しみを感じるか」という問いに対しては、「親しみを感じない」「どちらかといえば親しみを感じない」という回答が79%に上る。

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