30歳がんで逝った男が遺した闘病2年半の生き様 棋士目指し最後まで勝負師だった天野貴元のブログ

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職場復帰を果たし、アマチュアの将棋大会や麻雀大会に積極的に参加するようになった頃、天野さんはこう日記でつづっている。

<いつまで生きられるのかわからないっていうかあんまり先は長くなさそうですけど、私は勝負師なので何か自分でも勝てる可能性のあるジャンルを探して日々生きてます。>
(あまノート/2013年9月4日「生きたいという思考、死にたいという思考」)

「勝負師」として勝てる何かを探すなら現実の観察と分析は欠かせない。今もなお勝負師であるという自負が、高速な前向き思考に向かわせたのかもしれないと思えた。加えて、後ろを向きがちな自分を律する意識もあっただろう。この時期に執筆を始めた自伝『オール・イン』でこう告白している。

<いまだから言えることだが、僕は失敗をすぐ忘れられない性格だった。「あのときこう指すべきだった」と悔いたとき、その後悔をなかなか取り払うことができない。>
(『オール・イン』165ページ)

刊行したのは2014年3月。後に将棋ペンクラブ大賞 文芸部門大賞を受賞する。

がんの再発とアマチュア日本一

がんが再発したのは、自著が店頭に並んで間もない5月中旬のことだった。

<本日、医師より正式に「遠隔転移」と診断されました。これはつまり、ガンの再発です。
以前にも書いた事ですが、私の場合再発したら受けられる治療が限られてきます。特に、放射線治療は回数のリミットにほぼ達している為、できません。
しかも遠隔転移というのは、ステージがいくつとか以前の問題で、体中にガン細胞が飛び散っているという事です。実際PETの写真を見させてもらいましたが、胸、肺など3カ所にガン細胞が見つかりました。
これからの治療法について説明を受けましたが、結論から言えば延命治療で、医学的には「投了」。何もしなければ、余命は半年~1年とはっきり言われました。
残念です。本当に残念です。今までベストを尽くしたとは言えなかったかもしれないけれど、少なくともガンと言われたその日から、マズそうな事はしてこなかった。手術はした、放射線もした、抗癌剤だってした、酒はほとんど飲んでない、タバコに関しては1本も吸ってない。これでも根治しないなら、さすがにもう無理な気がします。>
(あまノート/2014年5月21日「ご報告」)
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