30歳がんで逝った男が遺した闘病2年半の生き様 棋士目指し最後まで勝負師だった天野貴元のブログ

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同年10月に26歳の誕生日を迎え、負け越しが許されないリーグが始まった。18戦中10勝しなければチャンスはもうない。

<連敗して退会が決定しました。今までありがとうございましたm(__)m>
(Twitter/2012年1月7日)

結果は4勝14敗。天野さんは2012年3月に奨励会を去った。

新生活から間もなく、青天の霹靂

以前から書いていたブログは解約し、夏に新たな発信の場として開設したのが現存する「あまノート」だ。

ブログ「あまノート」。初投稿は2012年8月16日だった

将棋への関心は消えなかった。将棋の普及活動は奨励会時代から取り組んでおり、高校に指導対局に出向くなど積極的に動いた記録が最初期の投稿に残っている。半年が過ぎる頃にはプレーヤーとしての意欲も戻ってきて、ネット将棋を指すようになった。

<最近将棋が楽しくて仕方ない(笑) 半年以上将棋から離れて、一度気持ちがリセットされた気がする。
さすがにもう一度プロを目指して・・・なんて気はないけど、以前より明らかに情熱がある。
将棋が嫌いになる寸前までいったけど、嫌いにならなくて良かった。>
(あまノート/2013年1月29日「不思議」)

情熱の受け皿になったのは奨励会時代から応援してくれていた実業家だった。2013年2月に会社員となり、将棋事業部で将棋の普及活動を進めることなる。その矢先、舌の痛みは突然襲ってきた。

<それは青天の霹靂だった。
「イテッ!!・・・・・・」
僕は思わず手でアゴの横を押さえた。高圧の電流を流したような「ズキッ」とした疼痛が、何の予兆もなく本当に突然、舌に流れたのだ。
(略)
おそろしくタチの悪い虫歯が舌にまで引っ越してきたような痛みを我慢しながら、僕は耐えてやり過ごそうとした。しかしすぐに、これは通常の痛みとレベルが違うことに気がついた。>
(『オール・イン』172ページ)

近所の耳鼻咽喉科に行くと、今日中に大きな病院で診てもらうようにと紹介状を渡された。そこで告げられたのは「ほぼ間違いなく舌がん」という言葉だった。精密検査の結果、ステージ4の舌がんと正式に診断が下る。3月28日。すぐに会社に報告し、ブログやFacebook、Twitterでも現状を伝えた。その一部が冒頭に引用したブログ記事だ。

<この度医師より正式に舌癌と診断されました。
全ての仕事を中断し、来月上旬に入院手術を行う事が決定。なぜこんな事になってしまったのかは原因不明らしく、残念としか言いようがありません。>
次ページ原因不明だがこれまでの生活が頭を掠めた
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