経営者は「部下に尋ねて、部下を育てよ」 幸之助が考える、会社を発展させる道

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うん?どうして得か?そりゃそうやろ。きみ、いろいろな考えというか、知恵というか、今の言葉で言えば、情報やな、情報を集めることができるわね。とくに今日のように情報を集めながら、仕事をせんならん時代は、部下や多くの人から話を聞くということは極めて大切なことと言えるわな。

人の知恵は借りない、人の話は聞かないで、自分でなんでも考えて結論出して、それでいつもいつも成功すると。まあ、そんな人は、普通はおらんね、正直なところ。人間ひとりの知恵には限度があるわ。そんな限度ある知恵で、無数の課題を持つ経営をしようとしても、詰まるところ、うまくいかんのや、わしの経験から。

部下に話を聞くということは、ごく自然にたくさんの知恵を集めることが出来る。自分以上の、たくさんの知恵を集めることが出来るということやね。なあ、きみ、便利やろ。

話を聞かない責任者は失格

うん、部下の話を聞くときの心掛けか?部下の話を聞くときに、心掛けんといかんことはな、部下の話の内容を評価して、いいとか、悪いとかいうたらあかんということやな。部下が責任者と話をする、提案をもってくる、その誠意と努力と勇気をほめんといかん。まあ、部下からすれば、緊張の瞬間ということになるわね。

ところが、見ておると、たいていの部下の持ってくる話とか知恵の内容を吟味して、それで、あんたの話はつまらんとか、そういうことは、以前やってムダであったとか、そんなことは、誰でも考えられるとか、時には、もうそんな話なら、分かっておるからとか、そういうことを言って、部下の話を聞かない。そういうことを責任者がやるとすれば、責任者として失格や。

だいたいが、責任者より部下のほうが、いい提案をいつもするようならば、その責任者と部下と立場を変えたほうがいいということになるわね。部下のほうが優秀だということになるからな。そうではない。部下の話は、何回かに一回ぐらい、うん、ええ提案だと、ええ知恵やな、ということになれば、それで十分なわけや。

それよりもなによりも、部下が責任者のところへ話にくる、提案してくる、その行動を誉めんといかんのや。あんた、わしのところに、よう来てくれた、よう話をもって来てくれた、なかなか熱心な人や、と言うて、まず、それを誉めんといかんわけや。その部下が持ってきた話とか、提案の内容は、まあ、二の次でいい、早く言えばな。そうすると、部下は、それからなお勉強してどんどん責任者のところへ話とか提案とか、そういう知恵を持ってきてくれるようになるんや。なんでもいいから、部下に知恵を持ってこさせる、話を持ってこさせる、そういう気持ちを部下に持たせる。それが大事やね。

部下の話を、責任者が聞いておるとまた、部下の人たちが成長もするね。上の人から、ものを尋ねられる、あるいは、聞いてもらえるということになれば、部下のほうでも、聞かれたとき、あるいは報告や提案するとき、多少は、ましな話をしようかと思う。そう思えば、聞かれる前に、報告する前に、勉強しようか、調べておこうかということになる。結局、それで、人材が育つということにもなるわけや。尋ねて、育てる、ということやな

このとき、なお、ご機嫌で、松下の話が、このあともしばらく続いたことを今でも思い出す。

江口 克彦 一般財団法人東アジア情勢研究会理事長、台北駐日経済文化代表処顧問

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えぐち かつひこ / Katsuhiko Eguchi

1940年名古屋市生まれ。愛知県立瑞陵高校、慶應義塾大学法学部政治学科卒。政治学士、経済博士(中央大学)。参議院議員、PHP総合研究所社長、松下電器産業株式会社理事、内閣官房道州制ビジョン懇談会座長など歴任。著書多数。故・松下幸之助氏の直弟子とも側近とも言われている。23年間、ほとんど毎日、毎晩、松下氏と語り合い、直接、指導を受けた松下幸之助思想の伝承者であり、継承者。松下氏の言葉を伝えるだけでなく、その心を伝える講演、著作は定評がある。現在も講演に執筆に精力的に活動。

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