避難民の飼い犬「狂犬病予防法の特例措置」のなぜ 農水省「リスクが上がるわけではない」と説明
「条件がゆる過ぎてなんの役にも立たない」「ウクライナの飼育常識は日本と同じではないし、飼い主によるので、条件を徹底して守るかどうかわからない」などの批判もあります。なぜ、日頃から管理されている災害救助犬や盲導犬などと同じ扱いで問題なしとしたのでしょうか。
抗体価の測定や180日間の待機期間には、根拠があります。
「抗体価を測定する理由は、予防注射により狂犬病に対する免疫を獲得できたことを確認するためです。 また、待機期間をおく理由は、予防注射により免疫を獲得する以前に狂犬病に感染していないことを確認するためであり、潜伏期間に相当する180日間を待機期間としました」と動物検疫所のホームページに記載されています。
これはつまり、ワクチンを接種後に血液検査で基準値以上の抗体価が確認できても、100%感染していないわけではないということ。今回の検疫特例で、1日2回の健康観察と動物検査所への週1回の報告などを条件にした理由はここにあります。
「100%感染していないことが確認される前に、管理が明白でない犬を狂犬病清浄国の国民が生活している場所に放つ」という意味なのです。農林水産省はその後の健康観察と報告で安全性を担保するので、「狂犬病のリスクが上がるわけではない」としていますが、前述した理由から隔離を免除した時点で少なからずリスクは上がっていると考えます。
狂犬病の発生数が多いフィリピンで早期発見と予防の支援を行っている、大分大学医学部微生物学講座の西園晃教授がNHKの取材に対し、「現状はきちんと検査と把握がなされていて、過剰に心配せずとも大丈夫」と話す一方で、抗体が十分にある場合でも健康観察が必要な理由として、「きわめてまれに、狂犬病の犬と接触した犬が潜伏期間中であっても抗体の値が既に上がっているケースがある。また、まれに子犬の場合、母親犬から移行した抗体を見ているために子犬本来の感染防御能と一致しない場合がある」としています。
連日、検疫特例について専門家のコメントがさまざまなところで報道されていますが、「万が一のことがあるかもしれないので、狂犬病予防接種を受けるようにしましょう」というのが基本姿勢です。
ウクライナで狂犬病感染ゼロは不可能
在ウクライナ日本大使館のホームページでは、「地続きの国であるウクライナは、ほ乳類に関する狂犬病感染をゼロにすることは事実上不可能です。キーウ市内では狂犬病のヒト発症はないようですが、可能性がゼロとは断言できません。また、ウクライナ国内での狂犬病ワクチン接種(暴露前接種)が困難である現状を考慮いたしますと、たとえ飼われている動物(犬、猫などほ乳類全般)でもむやみに近づかないようお願いいたします」と、狂犬病感染に関する注意喚起をしています。
WHOの2017年度の報告では、ウクライナの狂犬病での死亡者は11人。ヨーロッパのなかでも感染者数が多い国の1つで、毎年数人の死亡者が確認されています。
ウクライナでも狂犬病の予防接種は義務化されていますが、接種の有無は飼い主によってまちまちのようで、ウクライナ在住のリュドミラさんは、「野生のキツネ、リス、ハリネズミ、ネズミなどが狂犬病ウイルスを保有していることが多く、接触すれば飼い犬や飼い猫にも危険がある」と話します。
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