避難民の飼い犬「狂犬病予防法の特例措置」のなぜ 農水省「リスクが上がるわけではない」と説明

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その後、「避難民に費用負担を求めるのは行き過ぎだ」との批判が殺到し、農林水産省は4月15日に「そうしたメールは発信していない」と否定をしたうえで、やむを得ず避難民と共に入国した犬に特例措置を適用するとしました。マイクロチップ装着と2回のワクチン接種、血液検査で基準値以上の抗体価が確認できれば、避難民の滞在先に同行できるようにしたのです。

通常、狂犬病発生国から犬や猫などが入国する場合、180日以上の待機期間が必要です。もし到着した際に180日に満たない場合は、不足する日数だけ動物検疫所で係留され、この間のフード代や管理費用(1日3000円)は飼い主(所有者)が負担することが義務付けられています。

しかし今回は、待機期間が過ぎるまで1日2回の健康観察と動物検査所への週1回の報告などを求めることを条件に、隔離を免除したのです。

狂犬病は発症すれば致死率100%

狂犬病は多くの国で発生していて、2017年度のWHO(世界保健機関)の報告では、死亡者が5万9000人にのぼります。このウイルスに感染し、発症すれば100%の確率で死に至ります。日本は1957年に狂犬病を撲滅した世界でも数少ない国です。そのため、ウイルスを媒介する犬や猫、キツネなどの動物を狂犬病発生国から持ち込む際には、狂犬病予防法による厳しい管理を行ってきました。

筆者は、ウクライナをはじめヨーロッパの国々から猫を日本に連れて帰った経験があります。もちろん厳しい検疫を経たうえで入国しました。

マイクロチップの装着から始まり、180日間の待機まで、その手順が違っても、日数が足りなくても検疫を通過することができないので、綿密な計画を立てて間違いがないように進めるなど、本当に苦労をしました。そのような経験がある飼い主は、今回の検疫特例に対し、余計に「なぜ?」という思いを持ったことでしょう。

筆者自身も、「狂犬病は絶対に日本に持ち込んではならない」「そのために必要な検疫である」と認識していただけに、検疫特例に感じるモヤモヤ感は大きくなるばかりでした。

そもそも、これは「避難民と一緒にペットが来ることを想定していなかった」政府のわきの甘さが招いた事態です。ペットを連れて入国する避難民に日本の検疫制度を説明し、理解を得ていれば、ここまでの騒動にはならなかったことでしょう。係留のための費用を支援することで、解決していたかもしれません。

今回のウクライナ侵攻では、多くの避難民がペットを連れて隣国のポーランドに入国したことが、何度か報道されていました。それを目にしながら、なぜ想定できなかったのでしょうか。

今回は、人道的観点という理由で、災害救助犬や盲導犬などが入国した場合と同じ措置を適用し、隔離を免除していますが、災害救助犬は普段から訓練を受け、管理されている犬です。盲導犬も身体障害者補助犬法のガイドラインでしっかりと管理されています。

対して、避難民と一緒に入国したのは、一般の飼い主が飼育している犬です。ワクチン接種をしているか、どんな飼い方をしているかなどは、飼い主次第です。隔離を免除する条件には、他の犬と接触させない、咬傷防止対策をすることも含まれますが、これも飼い主がどこまで真摯に取り組むかわかりません。

次ページ抗体価測定や180日間の待機期間の根拠
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