究極の「一人屋台生産方式」 PEC産業教育センター所長・山田日登志氏③

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やまだ・ひとし PEC産業教育センター所長。故大野耐一氏から学んだトヨタ生産方式の伝道者であり、またの名を「工場再建請負人」。1939年岐阜県生まれ。南山大学卒業後、中部経済新聞社、岐阜県生産性本部を経て、78年同センター設立。『ムダとり』ほか著書多数。

多品種変量生産をどう管理するか、答えはハッキリしてます。リードタイムを短くすること。段取り時間ゼロにすると、何でも速く作れる。それを分業じゃなく、だんだん一人でやれるようにしていく。多能工化をさらに進めた理想型が「一人屋台生産方式」です。作業しやすいよう部材や工具を周りに置いて、その光景が屋台のようだから。

多工程持ち自体はすでにトヨタ生産方式にあったけど、それを組み立てから検査、包装まですべて一人でこなしたらどうかと考えた。最初にNEC長野で実験して成功してからは、キヤノン、KOAなどへ導入が広がっていった。各人がもともと持ってた能力を発揮して、工夫を重ねて、コツをつかんでいくことで、ベルトコンベヤー使って分業生産してたときより、製品一つ当たりの生産所要時間は短くなったからね。能率だけじゃなく、品質もよくなる。やったところはどこも、品質不良が5分の1くらいになっちゃう。3%だったのが0・5%くらいにね。

本当にいい物を作る製造業にしていかなあかん

電機業界だけじゃない。最近指導してる洋菓子の「アンリ・シャルパンティエ」(アッシュ・セー・クレアシオン社)も、設備が老朽化したので3億円のライン入れる言うから、同じ生産できるから一人屋台やれ言うた。1時間に焼き菓子7000個作るのにラインを使わず一人屋台にする。作業員24人なら一人300個弱。オーブンも包装機も近くにまとめて配置し直して、12秒で一つ作れるか計らせると、おおやれますな、3億円の設備はいりませんなと。そんなことを僕らどんどん実験する。そして実際に成果が出るのね。

和菓子の「叶匠寿庵(かのうしょうじゅあん)」では売るときのサービスを少し変えた。いちばん売っとる人のちょっとした工夫、たとえばカウンターの向こうで後ろを向かずに、お客様と向かい合ったまま包装できるようにすれば対話が生まれる、そうした工夫をみんなが自分の店に応用していっただけで、前年比40%も売り上げを伸ばす店長が出てくる。お客様に満足してもらうためのコツを分かち合う。一人屋台ではないけど、ムダな動作もなくなってお客様の目を見て近くで話せる。お客様も楽しいね。ただ安い物が欲しいわけじゃないんだから。

僕が今盛んに思ってることは、大量生産、大量販売の発想で安物をただ吐き出すことから、お客様が満足して長く使いたいと思う、本当にいい物を作る製造業にしていかなあかんということ。それ変えないと日本はもたんもん。一人屋台はそれを実現する手段の一つやと思ってる。

週刊東洋経済編集部
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