名門・開成、前理事長が語るグローバル人材育成 大人は子どもに「世界」をどう教えるべきか
丹呉:民間企業の文系出身のトップにしても、これからは人工知能(AI)やエンジニアリング、科学の基礎知識を持たないと経営判断が難しい。法律家にしても、法律の知識だけでなく、技術の知識も求められるようになっています。
狭い自分の専門性の中だけではだめ
一方、理系の医学部の学生にしても、細かいいろいろな人間の仕組みや治療法を学ぶのは大事だが、その前に人間は何なのか、いま120歳まで生きられるということだが、それでいいのかといった哲学的なことを考えないといけない時代になっています。
田中:狭い自分の専門性の中だけで立ちゆかなくなるということですね。
丹呉:そうです。私は文科系出身ですが、それなら理科的な知識を持って視野を広げる必要があるわけです。専門性を持つのはいいが、同時に全体をみる視野の広さを持つように導く教育が必要です。田中さんの著書『13歳からの地政学』で述べていることですが、歴史や世界をみるときにも、鳥瞰(ちょうかん)できるような形でみることこそ大事だと思います。年号や事実を記憶するのも大事だが、歴史でも日本で起こったことで何が間違っていたのかとか、自分で考える取り組みも必要です。
田中:生徒に考えさせるという取り組みは教育現場でも進んでいるようです。
丹呉:指示待ち人間にならず、学生時代から自分自身で物事を考えて、主張して、結論を出していくという訓練ができていることが大事だと思います。一方、中学生までは基礎となる勉強をやる時期であり、あまり自由にしてしまうと放任とはき違えることになる危険性があります。そういう自由放任に傾いた中学校はあまりうまくいっていません。中学生までは生徒の好奇心を伸ばしつつ、学力の基礎体力をつけさせる期間であると思います。
田中:そのうえで、高校や大学で学生たちはとりわけ何をすべきでしょうか。
丹呉:できるだけ本を読むことと、いろんな人に会うということが大事です。本も流行のハウツーものだけでなく、文学も含めてさまざまなジャンルを読むほうがいいでしょう。社会人になった後も世界はどんどん変化するので、常に本を通じて勉強し続けないといけません。その意味からも、読書の習慣を持つのは極めて大事です。