NHKにも影響?BBC「受信料制度見直し」の意味 イギリス政府の白書が示した放送業界の激変

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白書の中で、政府は、2027年度までは一律徴収型の受信料制度が維持されることを認めつつも、視聴者の番組コンテンツへのアクセスの仕方が大きく変わっていることを指摘する。

「放送時に番組を視聴する人が減っており、受信認可を獲得しないことを選択する世帯が増えている」。もしこのトレンドが続くようであれば、受信料を払う人がさらに減ってゆき、「BBCが現在の程度の予算を維持しようとするのであれば、受信料を上げざるを得なくなる」。

政府はまた、受信料の未払いが刑事罰につながる現行制度に懸念を寄せる。75歳以上が住む世帯での受信料の支払い免除は2020年から廃止されており、「弱い立場にいる高齢者」「特に女性」が刑事罰の対象になりやすいことも指摘。「もっと公正で適切な資金繰りのメカニズム」を導入するべきではないか、と提案する。

いったいどのような形が「公正で、適切」なのか。政府は「今後数カ月以内に」詳しい手順を公表する予定だ。

ほぼ受信料で成り立っているBBC

BBCの現在の台所事情は、明るいものではない。受信料がBBCにもたらす年間収入の総額は約37億ポンド(約6000億円)で、これは商業部門も含んだ総収入約50億ポンド(約8000億円)の約75%にあたる。

昨年秋以来のエネルギー危機で光熱費が高騰してきたが、4月、インフレ率は30年ぶりの高水準となる年7%に上昇した。秋までにさらに上昇する予測が出ており、2年間の受信料の値上げ凍結はBBCにとって相当厳しい措置となっている。

前回の王立憲章更新時、BBCは本格的な話し合いが始まる前に政府首脳陣と「受信料制度維持」を確約させる荒業を使った。その代わり、政府が負担してきた75歳以上の高齢者世帯への受信料支払い免除分をBBCが負担する、という条件付きだった(ただし、BBCは「負担が大き過ぎる」という理由で後に一律免除制を停止し、75歳以上でかつ低所得の世帯のみ免除とした)。

しかし、視聴行動やメディア環境の激変を考慮すると、今回は受信料制度をこのままの形で維持する論法は立てにくい。

国の税金の一部として「放送税」という形で国民から一定の金額を徴収する形か、ネットフリックスのようにサブスクリプション制度になるのか、あるいは別の形にするのか。この秋、開局から100年を迎えるBBCは資金繰りという面でも新たな世紀に入りそうだ。

小林 恭子 在英ジャーナリスト

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こばやし・ぎんこ / Ginko Kobayashi

成城大学文芸学部芸術学科(映画専攻)を卒業後、アメリカの投資銀行ファースト・ボストン(現クレディ・スイス)勤務を経て、読売新聞の英字日刊紙デイリー・ヨミウリ紙(現ジャパン・ニューズ紙)の記者となる。2002年、渡英。英国のメディアをジャーナリズムの観点からウォッチングするブログ「英国メディア・ウオッチ」を運営しながら、業界紙、雑誌などにメディア記事を執筆。著書に『英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱』。

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