日本の野菜がこんなにも「甘くなった」意外な事情 トマトもジャガイモも高糖度になっていないか

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一方、宮地社長は糖度が高い野菜・果物が求められる背景について、「糖度計で測れるようになったのは20年ぐらい前で、最初はミカン産地が導入しました。その後、桃、ナシ、柿、メロン、スイカと対象が広がって、やがて糖度を測ることがスタンダードになった」ことに加え、流通業者がプロの八百屋からパートが品出しをするスーパーに変わったことも大きいと分析する。スーパーでは、対面で商品の魅力を説明することがないため、糖度というわかりやすい指標で商品訴求をしていると考えられる。

しかし、誰もがいつも高糖度の野菜を求めているわけではない。宮地社長は「大玉の糖度3~4の一般的なトマトは、火入れする料理に向く。ジュースは6ぐらいがちょうどいい。ハピトマは、生で食べるのに向いています」と説明する。流通業者では、大手スーパーが糖度6~7、高級スーパーは7~9、百貨店は差別化するために10、13のトマトを求める傾向があるという。

ラーメンなどが顕著なように、日本では近年、濃厚な味がもてはやされる傾向がある。ドリンク類も「濃いめカルピス」など、味の濃厚さを売りにする商品が目立つ。水分量が少なく糖度が高い野菜も、味が濃い。

これ以上糖度が上がることはない?

ところが、中野特任教授は「10年ほど前、量販店で一般の消費者の方を対象にして、『水っぽく味が薄いオランダのキュウリ』と、『味のしっかりした日本のキュウリ』の食べ比べを実施したことがあるんです。高齢の方は日本のキュウリのほうをおいしいと回答しましたが、若い人は水っぽいキュウリをおいしいと評価したことを記憶しています。世代や時代により、求めるものが違うのかもしれません」と興味深い実験結果を教えてくれた。

最近、塩分控えめの食品が少しずつ増加している。ファミリーマートが2018年から弁当や総菜に含まれる塩を平均で約20%減らす「こっそり減塩」に取り組むなど、食品業界で減塩の取り組みも始まっている。コロナ禍で、家で食べる機会が増えて薄味の魅力を再発見した人もいる。まずは塩味から、薄めのトレンドがじわじわと広がっているのかもしれない。

中野特任教授も「糖度の面ではある程度、行きついた感があるかもしれません。イチゴもこれ以上甘くするという感じではないですし、メロンでも糖度をさらに上乗せする議論はあまり聞きません。トマトでは、酸味も併せ持つ、機能性や食感、さらにはエシカル消費など別の付加価値を加えていく方向性になるのではないかと思っています」と話す。

味が濃いもの、甘いものは、おいしいと感じやすい一方、飽きやすい場合もある。糖度の追求はひたすら豊かさを求めてきたことと似て、ある程度充足すれば、むしろ味のバランスの良さや薄味を求める傾向が強くなるのかもしれない。今後は、甘さだけではない食べ物のおいしさを感じとる人が増えていくのではないだろうか。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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