霞が関の外から政策を変える「起業家」たちの正体 日本でも注目が集まる政策起業家の活動とは?
筆者が運営する政策起業家プラットフォームPEPでは、政策起業家を「社会課題等の解決手段となる特定政策を実現するために、情熱・時間・資金・人脈、そして革新的なアイデアと専門性といった自らの資源を注ぎ込み、多様な利害関心層の議論を主宰し、その力や利害を糾合することで、当該政策の実現に対し影響力を与える意思を持つ個人(または集団)」と定義している。
この定義には2つの特徴がある。1つは、「社会課題の解決のために」行う活動であるというある種の公益規範である。すなわち、企業や特定団体への利益誘導を行うイメージを持たれがちなロビイストとは異なり公益性や社会性を重視することを明確にしている。
2つ目は、「政策の実現に対して影響力を与える」という実装を重視している点だ。
この点が、例えば自己の主張をデモなどで伝える、発信・アジェンダ形成だけを行うアクティビストやアドボカシーとは異なる。しっかりと予算や法案にまで道筋を立てていくことを重視している。そのためには、政治や政策過程に対する深い理解、内部の政官の政策推進者と意思疎通し協力し合えるような関係性、そして論理やナラティブに裏打ちされ共感を得られるような質の高い政策内容の打ち出しが不可欠となる。
政策起業家が注目される3背景
では、なぜ今改めてこうした役割が注目されるようになってきたのだろうか。
ここには、大きく3つの背景がある。
1つ目は、政策の作り手側の環境変化だ。55年体制以降、「鉄の三角形」の一角として、また「日本最大のシンクタンク」として政策立案の中枢を担ってきたのは霞が関の官僚たちである。
今でも政策立案の中核であることに変わりはないが、官僚志望者は直近10年で3割も減少し、若手が大量退職するなど足元が揺らいでいる。
元財務官僚で、明治大学教授の田中秀明氏が執筆した『官僚達の冬』(小学館新書)や元厚労官僚である千正康裕氏の『ブラック霞ヶ関』(新潮新書)は、近年、官僚たちが厳しい状況に置かれていることを克明に描き出している。
官僚の存在感の低下の背景にはいくつかの要因がある。高度経済成長とともに、族議員や利益団体の声を聞いて最適な再配分を検討する昭和モデルは過去のものとなった。また、財源が限られるにもかかわらず、成熟した多様な社会の中で政策課題は複雑化している。
更に、政治主導・官邸主導によって官僚の裁量は減り、政策立案に使える時間は限定的になっている。そのような状況下で、とりわけ、貧困や子育てなど社会福祉の現場、変化の早いテクノロジー関係、外交安全保障など、現場知や専門知が不可欠な分野では、外部の専門家の貢献できる余地が大きくなっていると考えられる。
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