霞が関の外から政策を変える「起業家」たちの正体 日本でも注目が集まる政策起業家の活動とは?
また官僚は既存政策・制度への知識や、法令・予算などの高い調整能力を持つが、国民への積極的働きかけや、分野横断的・革新的政策のアイデア導出が必ずしも得意とはいえない。
一方で、在野の専門家は、政策実施の最前線での課題に精通しており、様々な政策アイデアを有している。国民への働きかけをする際も、国より自由度は高い。
新しい政策づくりの萌芽を見て取れる1つの例が、4月に与党が平将明座長の下で取りまとめた「NFT(非代替性トークン)ホワイトペーパー」だ。NFTは先端技術であることから、既存の省庁体系のもとでは、デジタル庁・金融庁・経産省・文科省など横断的にまたがる分野で官僚に任せているとなかなか進みにくい。
それを、元弁護士である塩崎彰久衆議院議員を中心として在野の専門家である弁護士達がチームを組んで官僚主体ではない形でペーパーを取りまとめるという新しい政策づくりの形がみられた。
行動するハードルの低下
2つ目の背景は、社会課題に関心のある層が実際にアクションを起こすハードルが下がったことだ。
副業や、専門家が知識やスキルを社会に無償提供する「プロボノ」の存在など、人々の活動形態は自由になってきている。これには、オンライン会議やSlackなどのコミュニケーションツールの普及で、週末や隙間時間でも活動が可能になったことが影響している。
例えば、普段は企業法務担当の弁護士が、プロボノで自分が情熱を持つLGBTQの権利に関するアクションを支援する。普段エンジニアやマーケティング分野で働いている人が、コロナ危機をきっかけに「Code for Japan」(IT技術を用いた地域課題の解決を目指す非営利団体)などのコミュニティを経由して専門性を生かし、自治体サイトや政府アプリの構築に貢献する。こうした活動が容易になってきた。
また、アンケート実施、署名活動、オンラインでの発信など、データ分析からアジェンダ形成まで、個人レベルでも簡単にできるツールも増えた。このように、弁護士・エンジニア・民間企業・社会起業家・研究者など、さまざまな業態に身置きながら社会課題・政策課題に携わる選択肢が増え、政策はフルタイムの公務員や職業ロビイストだけのものではなくなってきた。そう言った人々は、従来のラベリングではなく、前向きな「政策起業家」というアイデンティティに期待を寄せている。
最後に挙げるのが、人材と情報の流通による政策づくりのエコシステムの厚みが出てきていることだ。霞ヶ関を辞めた若手官僚は、スタートアップの政府渉外やコンサルティングなど民間の立場から政策分野に携わるケースも多い。一方で、行政側も、デジタル庁で民間人を200人規模で登用するなど、コロナ禍での困難を経て専門家を取り込む意識が急激に向上した。
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