テレビに学ぶ子と悪影響受ける子の微妙な境界線 3歳が境目も長すぎる視聴はやはり望ましくない

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これらの研究はすべてテレビに関するものだ。だが、今の子育て環境では、デジタル端末の画面を見ている時間が増えている。この「スクリーンタイム」はテレビと同じなのだろうか? 制限すべきだろうか?

厳密には、まだわからない。いくつか研究はあるが、大きな欠陥がある。ある論文は、生後6カ月から2歳までの間にスマホの使用が多い子どもほど言葉の発達が遅れると発表し、メディアの注目を集めた。だが、家族の特徴と6カ月の赤ちゃんがスマホを使った時間に相関性があるのではないか。そうした特徴が言語発達の遅れと関係しているとはいえないだろうか。

もちろん、デジタル端末を長時間使っても構わないという意味ではない。本当にまだわかっていないということだ。ただ、アプローチを広げて、事前の直感的な信念を出発点とし、それをデータによって修正して関係性を調べる「ベイズ統計」なら、もう少し前に進める。

直感的に「よくない」と思うことは大体よくない

私たちはこのスクリーン問題について事前の直感的信念を抱いているだろう。子どもの起きている時間は1日13〜14時間だ。そのうち8時間もテレビを見ていれば他のことをやる時間はほぼなくなり、マイナスの影響を及ぼさないとはとても思えない。

一方で、『セサミストリート』を1週間に1時間見たことで、子どものI Qが下がったり長期的な影響があるとも想像できない。iPadも同じ論理で考えられる。2歳の子が1日中iPadで遊んでいるのは悪影響がありそうだ。1週間に2回、30分ずつ算数ゲームをするのは、多分いいことだろう。

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最後に、直感は、経済学でいう「時間の機会費用」の考え方を前提とすべきだ。子どもはテレビを見ていると、他のことはできない。そのできたはずの「他のこと」によっては、テレビの視聴はよくも悪くもなる。

この点に関しては多くの研究が、『セサミストリート』で文字や単語を覚えられるが、親から教わったほうがもっとよく学習できると強調している。多分、ほぼ正しいだろう。

だが、二者択一すべきはこの点なのだろうか。多くの親が子どもにテレビを見せるのは、一息ついて、体を休めるため、食事を作るため、洗濯をするためだ。テレビを1時間見せる代わりに、親が余裕を失い、不機嫌に1時間子どもに怒鳴り散らしているのであれば、テレビのほうがまだまし、と言えるのではないだろうか。

前回:子どもの学力「親が共働きか否か」で差は出るのか(4月30日配信)

エミリー・オスター ブラウン大学経済学部教授

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Emily Oster

米アイビーリーグの名門校、ブラウン大学経済学部教授。経済学者の両親のもとで育つ。ハーバード大学で統計学を学び、経済学の博士号を取得。開発経済学、医療経済学など幅広い分野の研究成果がメディアで注目され、2007年には有名講演者の登壇するTEDカンファレンスでアフリカのエイズ問題を講演。シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネス准教授時代の2013年、自身の妊娠出産で検証した客観的なデータをもとに、著書『お医者さんは教えてくれない 妊娠・出産の常識ウソ・ホント』(東洋経済新報社)を刊行、大反響を呼ぶ。夫は同じブラウン大学教授の経済学者ジェシー・シャピロ。2人の子どもと共にロードアイランド州プロビデンスに在住。

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