デジタル化「進まぬ日本」「成功する台湾」決定的差 上から強制するのではなく「選択肢」を与える

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2つ目は、台湾では「プライバシー強化技術」を使っていることです。例えば私たちは、ショートメッセージサービス(SMS)を利用した接触追跡方法を使っています。

唐鳳(Audrey Tang)/1981年生まれ。幼少時から独学でプログラミングを学習。14歳で中学校を自主退学、起業などを経て、35歳のときに史上最年少で行政院(内閣)に入閣、デジタル政務委員(閣僚)に登用され、部門を超えて行政や政治のデジタル化を主導する役割を担う(写真提供:NHK出版)

使い方は、個人が訪問先でQRコードを読み取り、画面に出てきたその場所に連動する15桁のランダムな番号を、フリーダイヤルにSMS送信するだけです。

カメラ付きの携帯電話ならアプリのダウンロードも必要ありません。訪問先の店などに個人情報が知られる心配も不要です。15桁の番号が送られるのは携帯の持ち主が契約している通信事業者だけですから、そのデータが訪問先の人間と共有されることも決してありません。

もちろん通信事業者は、携帯電話を売った時点でSIMカードを発行していますから顧客の電話番号を知っています。でも訪問先で画面に表示される15桁の番号を知らされるのはそれを入力する顧客だけで、通信事業者が訪問先の情報を知ることはありません。

携帯の持ち主、訪問先の人、通信事業者、この3者の中で、いわばパズルのピースをすべて持っている人はいないのです。

接触追跡が行われない限り、政府にデータは届かない

タン:そして、感染者が出て接触追跡が行われない限り、政府にそのデータが届くこともありません。すべてのデータが開示されるのは、接触追跡が開始されたときで、見るのは政府認証を受けた「接触追跡者」だけです。

接触追跡の実施内容はデータとして記録され、誰でもスマートフォンからそのサイトにアクセスし、過去28日間に、どの自治体のどの接触追跡者が自分の記録を閲覧したかを確認できますよ。もちろんこれらの記録は、28日間を過ぎたらすべて消去されます。

つまり台湾の接触追跡は、相互に説明責任を持たせ、データの保存場所を分散させ、QRコードとSMSを組み合わせることでプライバシーを強化したシステムなのです。これらの技術はすべて、パンデミックが起こるずっと前から存在していたので、すぐに導入できました。

スマートフォンにカメラが付いていなければ、15桁の番号を手入力してSMSで送ればOKです。大事なことは、技術の仕組みが非常に透明であることなのです。

堤:素晴らしいですね。とくに双方向に説明責任を持たせていることが、非常に画期的です。

堤 未果(つつみ・みか)/国際ジャーナリスト。ニューヨーク州立大学国際関係論学科卒、同大学院国際関係論学科修士号。国連などを経て現職。中央公論新書大賞、エッセイストクラブ賞、日本ジャーナリスト会議賞など複数受賞。「ルポ貧困大国アメリカ」「日本が売られる」など多くの著書が海外で翻訳されている(写真提供:NHK出版)

政府による行動追跡は不信感を生むので、日本でもこの手の法律が出てくるたびに論争になりますが、最大の理由は、まさにこの一方通行の仕組みなのです。

政府から市民の行動は見えるけれど、市民のほうからは見ることができない、自分のデータにいつ誰が何の目的でアクセスしたか、そしてどのデータがどう使われたのかも知ることができません。

これはそういうものなのかとあきらめていたけれど、今の話を聞いたら、まったくそんな必要はなくて、発想を変えさえすれば技術で解決できるのですね。

双方に説明責任を持たせるというこの手法は、コロナ禍以前からあったのでしょうか。

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