デジタル化「進まぬ日本」「成功する台湾」決定的差 上から強制するのではなく「選択肢」を与える

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タン:ええ、ありました。台湾には「全民健康保険制度」というものがあり、日本のマイナンバーカードと同じように、ICカードでデジタル化されています。2004年にすべてのデータがデジタル化され、それ以降、薬剤師や医師、看護師などが患者のICカードにアクセスするときには、彼ら自身のICカードと所属機関のICカードの両方が必要になりました。

そして、患者の医療情報が閲覧されたときには、この3種のカードの情報とともに、そこで書き込まれた医療情報がすべてデジタルデータとして記録されるのです。ですから、誰でも自分のカードの記録を見れば、いつ、どこで、何の情報が書き込まれたかということに加えて、自分以外の2枚のカード(医療従事者と所属機関のカード)の詳細も見ることができます。

このシステムのおかげで、スマートフォンの「全民健康保険エクスプレスアプリ」を通して、すべての診断や処方箋も画面上で確認できるようになりました。何か間違いがあればわかりますし、アプリを操作してその場で訂正もできるんですよ。携帯電話で自分のデータをチェックすることは、今では市民の日常の一部になりました。

堤:毎日チェックすることで、市民の側も自分の個人情報に責任を持つようになって、「全民健康保険」についての説明責任を果たせる……、実によくできた双方向のシステムですね。デジタル民主主義がうまく機能する、とても優れたインフラだと思います。

当局による個人情報の扱いは、日本でも繰り返し議論になっていたんですが、これがデジタルデータになると、例えばGAFAが提供する利便性と引き換えに、ほとんどの人が全面的にコントロールを渡してしまっているのが現状です。

でも台湾のこのシステムなら、自分のデータがどこへ行き、誰がいつアクセスしたのかをいつでも追跡できますね。途中経過を透明化することで、政府が市民の信頼を得ることにつながっているのでしょうか。

誰を信じるかを政府が強制することはできない

タン:政府のほうが市民に説明責任を委ねていたとしても、市民のほうが政府を信頼しているとは限りません。先ほどのSMS送信についても、通信事業者より訪問先のオーナーを信じる人もいるでしょう。それは市民が決めることで、誰を信じるかを政府が強制することはできないからです。

そうそう、市民の中には、SMSより信頼できる手段をすでに持っている人もいますよ。何だと思います? 日本の人々が使っているような印鑑です。台湾では多くの人が自分の名前の印鑑を持っています。中でも便利なのは本体にインクが内蔵されている進化したタイプの印鑑で、これなら朱肉を持ち歩く必要もありません。

このインク浸透印に自分の名字と連絡先の電話番号を載せたものを作って、訪問先でスタンプを押すほうがいいという人もいるのです。QRコードを読むよりずっと速いと。たぶんそのとおりでしょう。印鑑は0.5秒で押せますが、QRコードの読み取りには2秒ぐらいかりますから。ですから、印鑑の技術を信頼している人に、デジタル技術への切り替えを強いるつもりはありません。

次ページ「利便性」より「信頼性」で捉えると第3の道が見えてくる
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