デジタル化「進まぬ日本」「成功する台湾」決定的差 上から強制するのではなく「選択肢」を与える
堤:まさにそのマイナスの事態が、日本やアメリカ、世界のあちこちで起きているのを私たちは見せられていますね。
民主主義が進んでいるはずの欧州でさえ、プライバシーや自由の概念が上書きされ、ワクチン非接種者への罰金や逮捕、警察による都市閉鎖に反対する市民への発砲など、さまざまな権利の剥奪が横行しています。
オードリーが言うように、たとえ国民のためという大義名分があってもやり方を間違えば不信感を生むし、上からの強制は専制政治の序章になってしまう。そこで、それを回避するための、もう1つ重要な要素である「情報の透明性」について伺います。台湾では市民が自ら、リアルタイムでファクトチェック(事実確認)をしているそうですね?
タン:はい、中学生も参加するこのファクトチェックは、台湾ではメディア・コンピテンスカリキュラムに組み込まれています。
台湾では情報を読解する能力をメディアリテラシー、情報を作り出し発信する力をメディアコンピテンシーと、使い分けています。生徒たちには、単に情報の消費者になるだけでなく、メディアが社会のためにできることも、学んでほしいですから。
そのためには、小学校や中学校など早い段階で、子どもたちにニュースの編集室を見学させる必要があります。台湾には、政府でなくソーシャルセクターが作った、市民によるファクトチェックの仕組みがたくさんあるんですよ。われわれ政府の仕事は、そうした場をできるだけ広げて、国民に参加を促すことです。わかりやすく言えば、いくつもの「ウィキペディア」が、リアルタイムで更新されてゆくようなものですね。
市民とプロの2段構えでファクトチェック
タン:例えば「Cofacts」という市民のファクトチェック団体は、ネットのトレンドに上がっている真偽不明な情報について、市民がLINEで報告できる仕組みを提供しています。
これによって、とくに拡散スピードが速い、不確かで噂レベルの情報が、拡がる前に特定される。市民が特定した情報を、次にプロのファクトチェッカーが見て、プロの視点で検証したレポートを作成するという流れ作業です。
この一連の作業中に、ネット上で何かが削除されることはありません。でもそのうわさが事実関係を確認済みであることや、もし偽情報だとわかった場合は安易にシェアをしないよう、目立つ形でラベルが表示されるのです。私たちはこの表示を「公示」と呼んでいます。そしてこの公示に貢献しているのはもちろん、すべての人々、台湾の市民たちです。
堤:企業やマスコミによるファクトチェックはよくありますが、市民とプロの2段構えというのは、情報に対する主体性を育てる意味でもとてもよいですね。
私は、デジタル時代において「正確な情報へのアクセス」は公共サービスの1つにすべきだと思っています。Cofactsの「公示」は、まさに公共サービスですね。一方、ネットの世界には荒らしや編集合戦などの問題がつねについて回りますが、例えば政治目的や、人々を特定の方向に誘導するなどして悪用されないよう、Cofactsは何か対策をしているのですか?