「で、エビデンスは?」にムカッときた時の対処6つ 「心の中では相手を言い負かす」を実践しよう

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これは発見でした。無意識に持っていた、自分の価値観(こだわり)に気づいたのです。

「そうか。私は“エビデンス嫌い”なんだ。だから、エビデンスがとってあるのに、講座の中で、それを伝えることをしてこなかったんだ。でも、それは私自身の好き嫌いだ。次回からは、この講座はエビデンスに基づいていることを最初に言ってしまおう。そうすれば無用なトラブルは避けられる」

と、ここまで考えが至りました。

私の「物語」が変わった

怒りのプロセスを進めていくうちに、私はうれしくなってきました。

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まず、怒りをケアして、ちゃんと低下させることができました。そのうえで、さらに「今後はきちんと予防できる」という思考にまでたどり着けたのです。

対処できたという「自信」を実感できると、今度はこの体験を提供してくれた彼に、感謝の気持ちさえ湧いてきます。彼のことを思い出しても、嫌悪感はすっかり薄らいでいました。

このように怒りのケアをすることで、私の中で「講座で嫌な思いをした」という物語が、「いいことに気づかせてくれた貴重な体験」という、違う物語へと変わっていたのです。当然、記憶の残り方も変わってきます(プロセス⑤記憶のケア)。

みなさんは、怒りを感じたら、一発で解決できる万能スキルを求めているかもしれません。

でもどんな怒りでも、私の体験のように、何日もかけて、行ったり戻ったりを繰り返しながらプロセスを進めていくのが、自然で現実的なケアの形です。

怒りのケアを進めた結果、心から納得できる結論にたどり着くこともあれば、単にモヤモヤが薄くなっていくだけのこともあります。どんな場合でも、きちんとプロセスを踏めば、怒りを自然な形で過去のことに移行していけます。

また、どんなメソッドも「合う・合わない」「使いやすい・使いにくい」が人によって、また時と場合によって違います。まずは小さなイライラ事象から、怒りケアの「6つのプロセス」を試し(プロセス⑥繰り返し)、焦らず自分なりの実践を積み重ねていきましょう。

(取材/構成 向山奈央子)

下園 壮太 メンタルレスキュー協会理事長、元・陸上自衛隊衛生学校心理教官

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しもぞの そうた / Sota Shimozono

1959年生まれ。82年防衛大学校を卒業後、陸上自衛隊入隊。陸上自衛隊初の心理幹部として多くのカウンセリングを手がける。大事故や自殺問題への支援で得た経験をもとに独自の理論を展開。陸上自衛隊衛生学校で、衛生科隊員(医師など)に対する教育に携わってきた。2015年に退官。現在は、NPO法人メンタルレスキュー協会理事長を務める傍ら、講演や研修会で、独自のカウンセリング技術を普及。著書は『うつからの脱出』(朝日文庫)、『心を守る ストレスケア』(池田書店)など多数。

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