「6歳から投票を」が冗談と片付けられない理由 機能不全に陥った世代間の社会契約という問題

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高齢の有権者は概して、低金利や量的緩和などの政策で経済的需要を増やし、完全雇用維持を目指すやり方には消極的だ。そうした政策は貯蓄の利息を減らし、インフレを引き起こす危険があるからだ。

また、すでに退職している高齢者はたいてい、一般市民と比べて失業にそれほど関心をもたない。ドイツや日本などの高齢化社会における政党は、高齢者のこうした偏向に徐々に応じざるをえなくなってきている。

高齢者が裕福になればそれだけ、相続を通じて次世代に譲り渡されるものも大きくなるという主張もあるかもしれない。だが、相続を通じた富の分配は非常に不平等性が高く、そしてたとえば環境のように、個人的に譲り渡すことは不可能な、全体で分けあうしかないものもある。

若者や未来の世代の声に重きを置く

打開策として、ケンブリッジ大学の政治科学者デイビッド・ランシマンが(いささか揶揄を込めて)主張しているのは、投票ができる年齢を6歳に引き下げることだ(あなたの読み違いではなく、6歳である)。

そうすることで民主主義の増しゆく年齢差別を修正し、バランスをとることができるという。そうでもしないかぎり、若者の関心が国会や投票に適切に反映されることは永遠になく、まだ生まれていない者の利益はかけらも配慮されないということだ。

上院議員ダイアン・ファインスタインと、「グリーン・ニューディール」を主張する米国の熱烈な生徒たちが出会った意義深い瞬間に、ファインスタインはこう反論した。「でも、あなたたちは私に投票していない」。

この言葉の意図は、あなたがたは私に投票すべきだったということではない。年若い彼らに、それはどのみち不可能なのだ。ファインスタインが言っているのは、私に票を入れてくれた者の利益を代表するのが私の義務であり、その中にあなたたちは含まれていない、ということだ。

学校をボイコットして、気候変動への行動を求めるデモに参加すれば、新聞の見出しを飾ることはできる。それでも、民主主義において変化を起こすもっとも強力なメカニズムは投票だ。

いずれにせよ、若者や未来の世代の声や利益にもっと重きを置く方法を見つけることは必須だ。さもなければ、未来を形づくる社会契約は、未来を見届けることのない者によってのみ設計され、未来を見届ける者からのインプットは何もないことになってしまう。

(翻訳:森内薫)

ミノーシュ・シャフィク ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス・アンド・ポリティカル・サイエンス学長

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Minouche Shafik

エジプトに生まれ、幼少時にアメリカに移住。イギリスの大学院で経済学を修める。36歳のときに最年少で世界銀行の副総裁に就任し、イギリス国際開発省の事務次官や国際通貨基金(IMF)の副専務理事、イングランド銀行の副総裁を歴任。そのキャリアにおいて、ベルリンの壁の崩壊やアラブの春、2008年の金融危機やユーロ圏危機などに対応してきた。2017年から現職に就任し、21世紀の福祉国家について再考するための研究プログラム「ベヴァリッジ2.0」を立ち上げる。2015年の女王誕生記念叙勲においてデイムを受勲し、2020年に貴族院の中立議員に任命される。

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