未来におけるこの現象を、私たちは「シンギュラリティ(技術的特異点)」と呼んでいます。これは単なる数字の遊びではありません。将来についての無益な推測でもありません。紛れもない現実として現出するのです。
シンギュラリティは困難な課題を解決する
人類は、技術開発を始めたときにひとつの変化を経験しています。
たとえば、目の前に果物が実っている木があったとしましょう。技術が何もない時代は、低い枝に実っている果物には手が届きましたが、高いところにある多くの果物には手が届きませんでした。人類は、手の届かないところにある果物を手に入れようと、手の届く範囲を広げるための道具を作りました。その道具を使うことで、人類の力だけでは手の届かなかった果物を手に入れることができるようになったのです。
その視点に立つと、人類は手の中にある端末で人類の全知識にアクセスできることになります。シンギュラリティを迎えるころにはこの端末を脳の中に入れることができるようになるでしょう。人類は手の届く範囲を際限なく広げることになり、生物学的限界を超越して生きられるようになるのです。
脳に端末が入ることによって脳のバックアップを取ることができるようになり、人類はさらに賢くなる。その結果、人類にとって困難で、より深い問題を解決することができるようになります。現代では諦めるしかない健康上の問題やその他の疾患を乗り越えられるようになります。シンギュラリティは人類史のなかで最も特異な変化が起こるということなのです。
しかし、シンギュラリティは非常に深遠な変化です。技術は諸刃の剣になり得るので、これから新たな問題も出てくるかもしれません。しかし現時点で、人類にすべてのことを正確に考察することは難しいのです。
人工知能がプライバシーを侵害し、最終的には人類を破滅に陥れると不安視する人もいます。しかし、火を思い浮かべてみてください。火は部屋を暖め、食べ物を料理するために使うこともできれば、村を焼き払うこともできます。繰り返しますが、技術は常に諸刃の剣なのです。幸いなことに、現在、人類は歴史上最も平和な時代を迎えています。
今、まさに起こりつつある世界中の紛争を見るとそう思えないかもしれませんが、実際に世界で起こる「暴力」は指数関数的に減少しているのです。心理学者のスティーブン・ピンカーは、著書「The Better Angels of Our Nature」のなかで次のように説明しています。
「暴力の量は急速に減少している。対人関係や国家的暴力であなたが殺される確率は、数世紀前に比べると500分の1になった。我々には民主主義があり、社会的コミュニケーションが民主主義を高揚させているからだ。我々はより豊かになっている。何世紀も前には、生活に最低限必要な資源さえ不足し、それは暴力によって解決されていたのだ」
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