最後の切り札は手紙。文豪たちの高等戦術をヒントにしてみよう。
渋沢栄一は借金の断り状について、「諄々(じゅんじゅん)事情を説いて、成程(なるほど)と其(その)応じ難き理由を納得せしむる方が、甚(はなは)だ好ましい」と述べ、相手をいたわりながら所期の目的を遂げることの大切さを説いている。ともすれば関係を壊しかねない、鼓舞する、口説く、といった高度な手紙も同様の注意が不可欠。加えて、個別の相手の心に響くよう、戦略を選ぶ必要がある。その戦略のヒントを、天才文章家、文豪たちの手紙から学ぶことにしよう。

部下を鼓舞する手紙
愚弄と称賛の落差で奮起を促進〈正岡子規型〉
褒められると成長するタイプと叱られると奮起するタイプとがあるが、アメとムチを同時に使うと、一層効果的な場合がある。俳人正岡子規は、弟子の河東碧梧桐の文章を、まず次のように酷評した。
「只今貴著をよんで大(おおい)に失望せし …悲しくも勇ましくも嬉しくも面白くも思わざるなり。…貴兄は之(これ)を以(もっ)て天下に誇るに足るとなすか」
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