大学では、なぜカネを巡る不正が続くのか 「工学部ヒラノ教授の事件ファイル」を読む

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大晦日にディスカッションをして、じゃあ続きは明日にしますか、明後日にしますか、と尋ねられ、なに聞いとるんやぁと思いながら、できれば明後日にお願いしますと答えたという話もある。もちろん土日も休みなし。しかし、その先生の論理は明快。日曜日もフルで働いたら、普通の人が7年かかる仕事が6年でできる、というのだ(ちなみに、土曜日がお休みになる前のお話であります)。わかりやすすぎる。が、今なら、間違いなくアカハラ認定だ。

制度が整備され、やむをえず不正をする必要はなくなったし、ハラスメントも激減しているだろう。昔に比べたら研究費も潤沢だ。そう思うと、大学の状況というのは相当によくなっているはずなのだが、国立大学に漂う閉塞感は尋常ではない。単なる気分だけではない。業績の面でも、欧米、中国など、他国は右肩上がりなのに、日本からの論文数だけが、平成18年から減少に転じているという、とっても暗いデータがある。

大学教員にのしかかる、業務増加

原因はいろいろあるだろうけれど、平成16年度に行われた、国立大学の独立法人化の影響が大きいという解釈に異を唱える人は少ないだろう。大学に裁量権を与える、というと聞こえはいいが、その分、明らかに教員の運営業務が増加した。任期制のポストが増える、給与の伸びは鈍る、など、雇用条件も悪くなってきている。

その上、文部科学省からいただく運営費交付金は、「大学改革促進係数」という、いまひとつ意味がよくわからない係数をもって、毎年、着実に減額され続けている。研究室と同じく、倒産する国立大学が出ないのが不思議なほどである。地方の国立大学では、節約のため、涙ぐましい努力がなされているところもあると耳にしたりする。

もちろん、お上である文部科学省は冷たいばかりではない。いろいろな理由をつけて、こういうことをやったらおカネをあげましょう、という「エサ」をまいてくださる。そういった競争的資金に、各大学は我先に手を挙げる。そんなエサの中には、なんとなく後になって困りそうな「毒饅頭」っぽいものもある。しかし、おなかがすいているから、食べざるをえない。今の国立大学は、貧すれば鈍する、を絵に描いたような状況なのである。

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平成27年度からは、法律が一部「改正」され、一層のガバナンス=統治が導入されようとしている。かつては自治を誇りにしていた大学が統治へと舵を切らざるをえないのである。旧態依然とした大学側にも多々問題があることは重々承知している。しかし、いきなり不慣れな制度が導入され、国立大学がどうなっていくのか、先行きはほんとうに不透明だ。

ヒラノ教授の本を読みながら、そんなこともあったなぁと、懐かしみ、笑って読んでいられる今は、まだましな時代なのかもしれない。ヒラノ教授シリーズは、ノンフィクションを語っているが、ユートピア的な国立大学を描いたフィクションではないかと、20年後には多くの人が疑うような時代になっている可能性すらある。ヒラノ教授の時代はそれほどいい時代だったかもしれないのだ。 

仲野 徹 大阪大学大学院・生命機能研究科教授

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なかの とおる / Toru Nakano

1957年、大阪市旭区千林生まれ。大阪大学医学部卒業後、内科医から研究の道へ。京都大学医学部講師などを経て、大阪大学大学院・生命機能研究科および医学系研究科教授。HONZレビュアー。専門は「いろんな細胞がどうやってできてくるのだろうか」学。著書に『こわいもの知らずの病理学講義』(晶文社、2017年)、『からだと病気のしくみ講義』(NHK出版、2019年)、『みんなに話したくなる感染症のはなし』(河出書房新社、2020年)などがある。

 

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