大学では、なぜカネを巡る不正が続くのか 「工学部ヒラノ教授の事件ファイル」を読む

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たとえば切符である。わが大阪大学では、出張の際、使用済み切符を持ち帰らなければならない。今や主要な鉄道はすべて自動改札なので、普通にしてると改札機に切符を召し上げられてしまう。ちょっと偉そうにしてるおっさんが、駅員さんに頼んで『使用済』のスタンプを押してもらっているのを見たら、大学教員である可能性が高い。ちなみに、大学教員たるもの、すみませんこの切符持って帰らねばならないのです、などとへりくだって言うよりは、毅然として「記念乗車です」と宣言しながらもらいうけるのが正しい(ような気がする)。

カネの切れ目が研究の切れ目

物品の購入は、かならず事務で検収をうけなければならない。こうすることにより、借金で物を買ったり、品目をごまかして購入したりできなくなっている。はずである。残念ながら、研究費というのは、申請してもコンスタントに採択される訳ではない。借金が不可なのだから、カネの切れ目が研究の切れ目。にっちもさっちもいかなくなって、研究ができなくなった研究室があってもよさそうなものだ。

しかし、寡聞にして、研究室が倒産したという話はついぞ聞いたことがない。なんらかのトリック、あるいは、ウソ、があるに違いないとふんでいるのではあるが、どうなのだろうか。一方で、これだけ制度が厳しくなっているのだから、相当にオリジナリティのある技を使わないと不正はできないはずなのだが、なかなか不正行為はなくならない。そんな技を考える時間があれば、もっと研究にいそしんでほしいところである。

大学の研究室というのは、いわば、資本金ゼロの零細企業みたいなものだ。業績という、金銭では計り知れない有意義なもの、あるいは、金銭には換算できない無意味なもの、を商品として、あとは、舌先三寸で、いや、もとへ、申請書を書いて予算を獲得するというビジネスモデルである。

また、商品を買ってくれるような直接の顧客ではないけれど、学生さんたちは、大学におカネを払ってくれる、ある意味ではお客さんである。だから、ハラスメントなどの狼藉を働くのはもってのほか。とあるセクハラ担当専門の先生は、「当たり前のことです。お客さんに手を出したらアウトに決まってるでしょう」と、断言していた。わかりやすい。

セクハラよりアカハラの方がはるかに厄介である。こちらとしては指導しているつもりが、ハラスメントと受け取られることだって十分にありえるのだ。アホなことをした大学院生に、思わず、この程度のことは小学生でもわかるやろ、と注意したことがある。しばらくしてから、スタッフがやってきて、先生、あの発言はアカハラに該当しますから、以後気をつけてください、という。

ほんまかいなと調べてみると、そのスタッフが正しかった。抽象的に、君、理解力が低すぎるよ、と諭すのはいいらしい。が、小学生レベルなどと、明かな具体例を挙げて「おとしめる」ような発言はあかんらしい。時代である。今や、言いたいことの一割も言えなくなっている。残念ながら、抽象的に注意して、十分にわからせるような高等な術を私は知らない。まずもって、相手の理解力が低いのだからなおさらだ。が、アカハラは避けねばならないのであるから、言うわけにはいかない。こうして、指導力が低下していく。

自分のことは、さて棚に上げ、昔は、歩くアカハラみたいな先生、今の判定基準でいうと、3日に1回くらいの割合でアカハラ案件を起こしておられたような先生がごろごろおられた。もうお亡くなりになられたが、ノーベル賞も夢ではないといわれていた某大先生。座右の銘が「努力は無限」というだけあって、それは厳しかった。自分に厳しいだけならいいけれど、研究室の人たちにも厳しかった。夜中の12時を回っているのに、研究室にいなかったからといって激怒された、などという程度の伝説は数多く。

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