作家・猪瀬直樹がつづる、妻への思い 「さようならと言ってなかった」を読む
5000万円の借入金問題を追及される猪瀬さんの姿をテレビで見たとき、見る影もなく打ち萎れた姿に愕然とした。札束に見立てた発泡スチロールを鞄に押し込もうとするとき、目は虚ろで汗が噴き出していた。400万票もの支持を得て東京都知事となり、五輪誘致も見事に成し遂げ、歴史に大きく名を残す知事になるはずだった。が、猪瀬さんの挑戦は、あっけなく終わりを告げたのである。
猪瀬氏が教えてくれたこと
20年ほど前、私はある情報番組に思いがけず抜擢され、キャスターという役割に初めて取り組んでいた。が、私は局のアナウンサーのような訓練を受けておらず、知識も経験もない素人キャスターだった。それを厳しく指導してくれたのが猪瀬さんだった。番組で取り上げる個々のテーマについて、つねに私に「どう思う?」と問い、「いやそれではまだ駄目だ」とさらに考えることを促した。
「物事を一方から見るな。複数の視点から見ろ。なにか自分なりの意見を持ったら、必ずそれと反対の意見を聞け」と言われた。
ある大物政治家がゲストで来たとき、ピリピリとしたスタジオの空気をよそに、猪瀬さんは相変わらずの傲岸な態度で切り込んだ。「公共の電波なんだ。視聴者が聞きたいことを遠慮なく聞くべきなんだ」と言った。
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