エース級でダメなら絶対エースを投入だ、と大胆な戦術を仕掛けてきたのが、前回覇者の東洋大だ。「山の神」が卒業した翌年に5区で大逆転を許したこともあり、前回は1万m27分台ランナーの設楽啓太を5区に起用したのだ。設楽啓は3年連続で2区を好走している選手。柏原と違って上りが得意というわけではなかったが、1年前から5区の準備させてきた。そして、“適性”ではなく、“準備”と“走力”で区間トップを奪い、総合優勝につなげている。
筆者が取材した中では、5区の距離が延びたことを喜んでいた指揮官はほとんどいなかった。小田原中継所の場所を提供していた鈴廣の再整備事業(現在の『鈴廣 かまぼこの里』)も中継所を変更することになった理由のようだが、「4区を短縮することでトラック専門の中長距離選手に箱根駅伝出場の機会を広げ、5区を延長することでマラソン選手の育成や強化を図ること」という理念もあった。
しかし、現実はどうだろう。純粋な中距離ランナーに18.5kmは長すぎたようだ。800mや1500mを専門とする選手の出場はほとんどなく、実際は、1年生など距離に不安のある選手の区間となった(前回は23校中、1年生が9人出場)。そして、最長区間となった5区を走った選手で、学生のうちにマラソンに参戦して2時間15分を切った選手はいない(※大学卒業後に2時間10分を切った選手も4人だけ)。
5区の距離は元に戻すべき
個人的には、距離を元に戻すべき時期が来たんじゃないかと思っている。
8区間106.8kmで争われる全日本大学駅伝は最終8区が19.7kmで最長区間となる。アンカーひとりが約18.4%もの距離を担当することになるが、箱根5区ほど劇的な大逆転は起きていない。しかし、箱根では5区を走る選手の“負担”が大きすぎる。あくまでも個人の実感だが、5区は10区間のひとつではなく、レース結果の25%ほどを占めていると思う。特殊すぎる区間の選手ひとりに十字架を背負わせるのは、あまりにも酷だ。
5区を走ったことのある有力選手は、「大学卒業後に、あのようなコースを走ることはありません。世界で勝負していくことを考えると、5区では(将来に)つながらないと思うので、個人的には走りたくありません」と話す。現場の指揮官たちも「5区を短くしよう」という声が多い。
箱根駅伝が「TVショー」なら、5区の距離が長いほうが絶対に盛り上がる。しかし、選手のことを考えると、適正距離とはいえない。箱根駅伝は誰のための大会なのか。再考するときがやってきたようだ。
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