「女性は被害者!」という思考が持つリスク

それはハラスメントか、マネジメントか?

私は、この時点では降格に合意していませんし、あと3週間、私がそのポストにいるせいで大きく業務に支障をきたすとも思えません。だから「これはマタハラだ、出るとこに出て争う!」と言っていれば、もしかしたら何かが変わったのかもしれません。でも、私は声を上げませんでした。そして今でもその判断は間違っていなかったと思っています。

その瞬間はもちろんショックでしたが、その後の私は「ポストをクビになった」ことと「妊娠して産休入り直前である」ことを「分けて」考えました

私は役員も、私の仕事でのパフォーマンスと妊娠・出産ということを、あえて、分けて考えてくれたのではないかと今でも信じています。だからこそ、手加減せずに厳しい評価コメントを告げ、通常どおりの人事をしたのだ、私のビジネスマンとしての成長を真剣に考えてくれたのだ、と確信しているのです。

今や年功序列の世界観は崩れ、昇格したら降格の可能性もセットが通常です。降格することができなければ、抜擢で昇格させることや、役職に挑戦する機会を与えることも、慎重にならざるをえなくなる。これは男女問わずに、企業で昇っていくと直面する現実でもあると思います。

力が伴わないのに降格できないとしたら……

厳しい評価や処遇を伝えることが難しい中で、女性から妊娠の報告を聞いたら、「すわ、今だ!」とばかりに降格人事を検討する、そんなありえない企業もたくさんあるのでしょう。その人の評価は低くないのに、「業務が軽くなるんだから、降格は当然」と考えたり、「ポストがひとつ空くぞ」と考えたりする時代錯誤な企業も、きっと多いのだと思います。そんな企業の行為を「そういうこともあるよね」なんて言う気はありません。「卑怯だ!」と心から思います。

実は、私自身が管理職だったとき、同僚から、「仕事のパフォーマンスが芳しくない部下がいて、次の人事で役職の任を解こうと思っていたら妊娠の報告をされた。それで結局、その人事はできなくなった」と告白されたことがあります。

「妊娠のせいで任を解かれた」と思われてしまったら、会社は大きなリスクを負う。「ならばそのままのポストで置いておくしかない」と考えたわけです。「そうするしかないかもしれませんね」と私も答えましたが、これは私の判断ミスだったと思います。私が告げられたように、会社からの評価を受け止められるようにコミュニケーションし、新たに磨いてもらいたい能力についてきちんと語れていたら、こんなかえって失礼な人事をしなくても済んだからです。

産休入り直前の降格人事を受け入れた私でしたが、きちんと受け止めるまでに時間がかかったのは事実です。ただ、そこで自分と向かい合ったことで、この後の私は「昇っていく」ことだけを目指すサラリーマン人生と決別できたと思っています。

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