狂騒のはじまり、天下を取ったと思った 『もしドラ』の著者が明かす①

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ところが今回、ぼくは『もしドラ』がベストセラーになったことよって、それを身をもって体験することとなった。その渦の中に、否応なく巻き込まれることになったのだ。

そうしてそこで、「これは人生を狂わしてもおかしくない」と思わされることをさまざまに体験した。それは、『「もしドラ」はなぜ売れたのか?』のテーマとは直接関係なかったため、本には詳しく書かなかったのだが、ぼく自身にとっては得がたい「教訓」となった。そこでここでは、それらをできうる限り紹介していきたい。

天下を取ったような気がしたが

ベストセラーは、足音もなくやってくる。『もしドラ』が刊行されたのは2009年12月だが、年が明けた2010年1月には、もうその狂騒は幕を開けていた。まず、多くの出版社から執筆の依頼があった。半年間で、合計20社ほどあっただろう。

 ぼくはそれまで、出版社から執筆の依頼を受けたことが一度もなかった。というより、本を出したいと企画を持ち込み、門前払いを食らわされたことなら何度もあった。そういう作家志望の売れないライターだったのである。

 そんな喉から手が出るほど欲しかった執筆の機会が、逆に向こうから飛んでくるようになったのだ。これは、ぼくにとっては天地がひっくり返るような状況だった。卑近なたとえだが、トランプの大貧民で、大貧民から一気に大富豪に上り詰めたような感覚だ。

 これは、有頂天にならない方が難しかった。自分が天下を取ったような気がした。そうして、そのことに非常に気を良くした。だから、それらの仕事は全部引き受けたいと思った。目の前のご馳走を、無理してでも平らげたかった。

 仕事に飢えていた若い頃なら、それをしていたかもしれない。しかしこのとき、ぼくはそれらの仕事を全て断った。理由は、それら出版依頼の「企画内容」が、全て同じだったからだ。それらの企画は、全て「『もしドラ』のようなものをお願いします」というものだった。『もしドラ』の「ドラ」の部分を入れ替えて、『もし○○』を書いてください――というものだ。

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