老舗「森下仁丹」が生まれ変わったワケ 創業120年の企業を救った異端者の改革

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自分たちの思い込み、既成概念を基に考えるから飛躍が生まれない。短期目標から未来を考えると、むしろ飛躍を邪魔する計画となってしまう。あえて「突拍子もない夢」から考えて、その夢を徹底的に検証する形で事業を進めていく。

この発想から生まれたのが、現在、同社の取り組む「レアメタル回収カプセル」や「シロアリ駆除用の擬態カプセル」、事業化に向けて開発が進む「経口ワクチン技術」などです。

「囲い込むのではなく、最初から世界に広げることを狙う」とは、開発した高い技術を、自社製品にだけ使うのではなく、世界中の企業が活用することを最初から目標にすることです。自社だけで囲い込むと、必ず誰かがやがて追いつき、ほかの地域でシェアを奪われます。

新幹線の技術的な優位性が脚光を浴びたとき、あえて輸出をしなかった日本は、現在では世界各地で他国の高速鉄道と入札競争を繰り広げています。どれほど優れた技術でも、囲い込めばやがて誰かが追いつき競争相手になるのです。そのため、「経口ワクチン」のカプセル技術は、世界中で特許を取得して開発を進めています。完成したときに、全世界の企業に同社の技術を利用してもらえるようにです(ただしそのために、知財戦略を完璧にしておくことは必須)。

駒村社長にはユニクロの世界展開を例として、②を説明していただきました。日本国内でうまくいったビジネスモデルを、海外で展開しなかった場合、必ず誰かがユニクロをまねて、ニューヨークや中国、東南アジアや欧州で展開したはずだと言います。優れた技術を国内で囲い込むのではなく、全世界の企業や消費者へ展開することを最初から狙うことは、日本企業の今後にも極めて重要な「離れる戦略」となるでしょう。

躍進最大の要因は、異端者がトップになったこと

最後に、森下仁丹の躍進を生み出した最大の要因は、おそらく駒村社長という当時、“明らかな異端”の人物をトップに据えた同社の英断だと言えます。工学部卒で大手商社の三菱商事に長く務め、イタリアの事業会社の社長も務めた駒村氏は、生き馬の目を抜く商社で世界を相手に戦ってきたビジネスのイロハを同社に注入して、伝統あるブランドとコア技術を生かしながら、過去から「離れる戦略」で同社を新たな成功に導いたのです。

1905年に発売された仁丹は、今もコアなファンに愛され、二日酔い予防に飲む人も多いとのこと。100年を超える伝統企業が活用した「離れる戦略」は、21世紀に飛躍する最先端のバイオ企業を生み出しつつあるのです。

鈴木 博毅 ビジネス戦略、組織論、マーケティングコンサルタント

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すずき ひろき / HIroki Suzuki

1972年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒。貿易商社にてカナダ・オーストラリアの資源輸入業務に従事。その後国内コンサルティング会社に勤務し、2001年に独立。戦略論や企業史を分析し、新たなイノベーションのヒントを探ることをライフワークとしている。『「超」入門 失敗の本質』(以上、ダイヤモンド社)、『実践版 孫子の兵法』(プレジデント社)、『3000年の叡智を学べる 戦略図鑑』(かんき出版)など著書多数。

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