──なぜ素手、素足で?
鍵山:ものを持ったとき、触ったときの感触が、素手と手袋とでは全然違うからです。素手が最も感じやすく、髪の毛一本まで感じることができる。敏感な指先で感じるからこそ、問題に対処できて早く解決できるのです。
最初のハードルを越えられるか
──日本や世界各国の知らない人たちが使ったトイレを、素手、素足で掃除するのは、普通は抵抗があると思います。なぜ鍵山さんは平気なのですか。
鍵山:スポーツでも一度越えたハードルは、次に飛ぶときは簡単ですよね。最初のハードルを越えられるかどうかです。越えられない人は飛べない。飛んでみもしないで、飛べないだろうなあと眺めている。
──できれば眺めていたいです(笑)。
鍵山:とてつもなく汚いトイレがありますよ。中国のトイレはすさまじい。来年、また行きますけどね。
──中国のトイレ掃除に行ったきっかけは?
鍵山:広島の「掃除に学ぶ会」の方がYMCAの沖縄の校長と親しくて、そのYMCAの校長が中国の科技大学の先生と懇意だったのです。平成9(1997)年に科技大学のトイレと上海の公園を掃除しに、日本から40人ぐらいで行きました。
──そういうときの旅費はどうされるのですか。
鍵山:飛行機代も宿泊代も自腹ですよ。
──自腹でわざわざすさまじいトイレの掃除に行く?
鍵山:基本的に中国人は自己中心的で、人のことはどうでもいい、自分さえよければいい、という考え方の人が多い。だから水洗トイレでも、用を足した人が、なんで次の人のために水を流さなきゃいけないんだって出て行ってしまう。次に入った人は、なんで俺が、前のヤツがしたものを始末しなきゃいけないんだって、たまったものの上に用を足して出て行ってしまう。だから半端な汚れ方ではありません。
──ハードルが高い。
鍵山:しかし、一緒に行った「掃除に学ぶ会」の人たちや科技大学の学生たちが群れになって後ろから私を見ています。もうやるしかありません。山盛りの糞尿を素手で便器に押し込み、流しました。
──うーん。そういった活動が中国の方によい影響を与えているのでしょうか。
鍵山:毎年、チームで行っていますが、大学構内のゴミが減って、だんだんきれいになっていますよ。
ブラジルでは“最下層の仕事”
──ブラジルはどのような感じですか。
鍵山:初めて海外で掃除したのがブラジルで、発端は阪神淡路大震災でした。1995年1月に起きて、私は3月に避難所の学校に掃除に行ったのですが、そこにブラジルからボランティアの方が3人来ていたのです。私たちがトイレ掃除をしていたら、「どういう団体ですか」と聞かれて、説明すると「ぜひブラジルにも来てください」と。翌年2月にブラジルのイベラ・プエーラ公園のトイレ掃除に行きました。
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