──日本全国のトイレを取材している“トイレハンター”のマリトモさんは、これまで何カ所のトイレをご覧になりましたか。
マリトモ:10年間で300カ所は超えています。きちんとアポイントが取れて取材できたのは100件弱ですが、トイレの取材って3件に1件は断られてしまうんです。「なんでうちの店の『カレー』じゃなくて、『トイレ』なんですか」と。逆に、なぜトイレに対してマイナスイメージを持っているんだろうと悔しくなります。
──本当になぜトイレなんですか。何にそれほど魅了されているのか教えてください。
マリトモ:トイレという場所は、老若男女が1日に何度も利用します。そして、このせわしない世の中で唯一、ひとりきりになれる空間です。誰かと一緒にお風呂に入る人はいても、トイレに入る人は幼児でないかぎりいない。いわば究極のプライベート空間。そういった意味で、トイレは希少価値が高いと思います。
日本のトイレは外国人が感銘を受ける場所でもあります。もともとはアメリカが最初に医療・福祉用に温水洗浄便座を開発したのですが、日本で独自の進化を遂げて日本独特のものに変えてしまった。そこが日本のすごいところです。
──マドンナが来日した時、「日本の温かい便座が恋しかったわ」と言ったのは有名ですね。レオナルド・ディカプリオがTOTOの最新型トイレを買ったとかいう話もあります。
マリトモ:海外セレブの方や著名人が日本のトイレを賞賛する背景には、まず日本人特有の「おもてなしの心」があると思います。さらに日本のトイレは世界に誇れる最新技術の結晶です。清潔さも快適さも世界一でしょう。用を足すだけの空間ではなく、一息つける、気持ちを切り替えられる、そんな役割も今のトイレは果たしているんですよ。
脱臭機能が優れているからニオイもしません。カルミックさんも頑張ってニオイを消してくれる。
──カルミックさん?
マリトモ:公共スペースのトイレによくある、斜めのマークがついたサニタイザーの会社です。その横にあるTOTOさんの「音姫」は排泄音を消してくれる。目の前にはコンビさんが赤ちゃんを座らせるシートをつけている。トイレの中でいろいろな企業がコラボレーションしまくっているんです。
こういう日本のトイレを通して、外国人の方が日本に来てよかったなあ、日本はすごいなあと思うわけです。
──日本の叡智をトイレで実感するのですね。
「便所メシ」は快適な個室のおかげである
マリトモ:日本人だって、たとえば最近、問題になっている「便所メシ」(ひとりで食事しているところを他人に見られたくなくて、トイレの個室で食べる行為)は、こうした企業のおかげでできるんだと思います。汚くてクサいトイレばかりだったら、食事はできないでしょう。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら