──よく続けられましたね。
鍵山:哲学者のショーペンハウエルがこう言っています。物事が成功するまでには3段階ある。第1段階は「嘲笑される」。なんだ、トイレ掃除なんかして、と。これが始まり。第2段階は「反対される」。誰もやれと言っていないのに抵抗するのです。その段階でバカバカしくなり、やめてしまう。こんなことやったってしょうがないという気持ちになる。
でも、そこを乗り越えると、第3段階は、笑いものにしたり、反対したりしていた人がいつの間にか「同調する」。そんなこと、とっくにわかっているよ、と。そうして初めて物事は成功するとショーペンハウエルは言っています。
──社員の方々がトイレ掃除をするようになったのですか。
鍵山:はい。10年を過ぎた頃から、社員が1人、2人と手伝うようになりました。ただし、今日やったと思ったら明日はもうやらないという感じで波はあります。
それがだんだんと浸透していって、20年を過ぎた頃には、大方の社員が掃除をやるようになった。社内だけでなく、近所の道路など広い範囲で掃除するようになりました。
トイレ掃除をして傲慢になった人はいない
──掃除が社内に根付いていって、ビジネスの面で何か効果はありましたか。
鍵山:お客様からの信頼が絶大になりました。よその会社の社員とは全然違うというふうに、お客様が見るようになった。たとえば、うちが商品をお客様に納める際に、普通は商品と伝票に記載された数が合っているかをお客様がチェックするのですが、うちはノーチェックです。うちの社員はごまかしたりしないという信頼があるからです。
みんなが掃除をやるようになってからは、外部の会社から「掃除の仕方を教えてほしい」と依頼が来るようになりました。最初は中小零細企業が多かったのですが、だんだん1部上場会社の社長が幹部社員を連れて来るようになった。
──社員教育として掃除を導入しようと?
鍵山:そうです。もう何をやってもうまくいかなくて、人づてに掃除がいいそうだと聞いて、半信半疑でやってくる。ある会社の社長は、会社をよくするためにいろいろな研修に行っては、次々と会社に導入したけれども、どれも成功しなかった。
でも、掃除を始めたら成功した。この掃除活動は、自分の意志でやり始めると、がぜん、心が変わるんですね。
──どういうふうに変わるのですか。
鍵山:掃除の効用は大きく5つあります。ひとつ目は「謙虚な人になれる」。私はこれまで何万人も掃除をする人を見てきましたが、掃除をやっていたら傲慢になったなんて人はひとりもいません。例外なく謙虚になります。謙虚になると、自分が接している周囲の人たちの対応が変わってきます。
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