「学研」社長が今、新入社員に求める「3つの素養」 「カマスの実験」が教えてくれた組織変革の要諦

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

私はもともと寡黙な人間で、防衛大在学中に受けた性格テストでは「コミュニケーション能力ゼロ」「リーダーシップゼロ」などと判定されたこともある。本来、1人で研究をするような仕事のほうが性格に合っているのではないかとも考えている。

学研に入社したばかりの頃は、担当していた「学研教室」の説明会で教室の先生方を前にして話すことが憂鬱だった。顔が真っ赤になってマイクを持つ手が震えてしまうのである。実を言うと、社長に就任したときの挨拶でも手が震えていたことを記憶している。

だから、とにかく努力でカバーしてきた。「手のひらに人という字を書いてのむ」といった暗示もひと通り試した。人と会う機会をたくさん作って積極的に話しかけたりもした。そうやって、多くの時間をかけて努力し、克服してきたのだ。

私の周りの経営者を見ても、コミュニケーションに関して努力している人は少なくない。饒舌でコミュニケーション能力に長けているように見える人が、実は裏で本を読んで勉強している、と知った経験も一度や二度ではない。

もし、コミュニケーションに苦労している人がいたら、無用な苦手意識を持たないほうがいいと言いたい。むしろ、周りにいる全員が、自分のように苦手に思っていると考えたほうがいいだろう。

そして「絶対に苦手は克服できるから大丈夫」と言いたい。私のように、コミュニケーション能力がゼロだった人間が言うのだから間違いない。

わが子をしのんで買い続けた『6年の科学』

私が今、新入社員に強く求めるビジネスの素養の3つ目は「魂」である。

初志貫徹という言葉があるが、人が志を貫くことは案外難しい。誰であろうとくじけることはあるし、自暴自棄に陥ることもある。私自身も心が折れそうになったことが何度かある。

ただ、そんな苦境を乗り越えていくための手がかりが学研にはある。その手がかりとは、これまで先輩たちが作ってきた商品やサービスにほかならない。そこには「学研魂」と呼ぶべき「魂」の存在があった。

私はかつて学研の礎を築いた学年誌『学習』『科学』の市場調査を行い、その過去と現状についての分析に取り組んだ経験がある。そしてその一環として、顧客へのインタビューを行う機会があった。

ある日、担当部長に誘われて、あるご家庭を訪ねることになった。部長が言うにはそのお宅は『科学』の読者で、小1から小6まで毎年購読していたのだが、『6年の科学』だけ、もう3年以上講読し続けているという。理由が気になるから、直接訪問して話を伺おうというわけだ。

今でも、そのお宅のことも、周辺の景色も鮮明に覚えている。出てきた親御さんには、とても丁寧に対応していただいた。そして、そこで意外な事実を聞かされて絶句した。そのご家庭のお子さんは、すでに3年以上前に亡くなっているという。その子は生前『科学』を読むのが大好きだったから、わが子をしのんでずっと購読しているというのだ。

学研という会社は、そういう雑誌を作っているのか……。胸が熱くなったし、誇らしかった。そうやって誰かの心を支えられるのなら、私は命を懸けてもいいと思った。

次ページひつぎに納められた学研の図鑑
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事