エリクソンはユングなどの考えを取り入れながら、人間の発達における“危機”に着目。人生には順番に乗り越えるべき課題やテーマが存在しているとし、生まれてから老年期まで人生を8期に分けるライフサイクル図式をつくりあげた。
ライフサイクル研究の基本的な考え方として、不安定さや困難に直面する時期を指す「危機(社会的危機)」は、それぞれ発達段階で飛び級することなく、順番に克服していくべきもの。そして、「危機」に伴うさまざまな葛藤は、人間の発達成長に不可欠なものと位置づけている。
多くの国の若者から共感を得るQLC
そんなライフサイクルモデルにおいて、6番目の発達段階にあたる「初期成人期」は18~40歳頃までを指す。乗り越えるべき危機は「親密対孤立」で、平易に表現すると「恋愛や友人との交流を経て、友人・恋人・パートナーなどと長期的・安定的な関係を築き、愛情(love)を得る」といったニュアンスだ。
「成人期初期の段階で人間は社会的な顔としてのペルソナ(編注:日本語で言う建前のようなもの)を形成していきます。ペルソナを持つことは社会生活を送るうえで大切な考え方ですが、その過程でどうしても本来の自分や人間性といったものを排除しなければならず、大きな困難を経験します。
研究の一環で、私は幅広い世代の人にインタビューしてきましたが、自身が20代に直面した困難について雄弁に語ることは、年配の方でもよくあることでした。たとえば私の父もそのひとりで、26歳で離婚を経験、そこからの10年間ほどはパートナーや仕事など、さまざまな決断に悩む最も大変な時期だったようです」
一方で、エリクソンが生きた時代と、現代の若者を取り巻く社会的環境は大きく様変わりした。18歳から40歳までを、ひとつにくくるのは現実的ではない。ロビンソン氏をはじめとする現代の研究者の多くは、こうした背景に注目して、ライフサイクル研究のアップデート作業を行っているのだ。
「たとえばエリクソンの時代は18歳で法的な成人を迎え、すぐに結婚・就職・出産という流れが普通でしたが、今は30代で第1子をもうける人が多数派になりつつあります。複雑化した現代社会では、20代中盤でも多くの機会と選択肢が与えられており、その選択を途中で変更・修正することもできる。そのぶんだけ、将来に悩む若者が増えているんです」
なお、イギリスでの研究の発展や欧米での認知から、QLCに対して「現代の、先進国の若者が共通して直面する問題」と感じる人もいることだろう。だが、ロビンソン氏によると、QLCは必ずしもそうした国・地域だけに存在する問題ではないようだ。
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