不謹慎かもしれないが、興味深い体験と洞察だと思う。浮気性は基本的に治らないし、浮気で始まった恋愛や結婚は、いつか浮気で終わることになるのだ。Aさんは弱さとズルさを併せ持ったタイプの男性なのだろう。愛の冷めた女性との関係を断ち切って、禁欲と孤独に耐えることが彼にはできない。ならば、女性のほうから切り捨てるしかない。
「当時、すでに35歳になっていたので、結婚もしたかったのです。でも、彼の気持ちのなさはわかっていたので、もし結婚しても幸せになれないと思っていました。それなのに別れるのが悲しくて仕方ない。
別れた後も半年ぐらいは苦しかったです。会社で仕事しているときは平気なのに、一人暮らしの部屋に帰ってふとした時に彼を思い出すと泣いてしまう。風邪薬みたいに、失恋を忘れる薬がほしかったな……。今、振り返ると、相手が振り向いてくれない分だけ固執してしまっていたのだと思います」
これもまた冷徹な分析である。去る者は追いたくなり、追ってくる者からは逃げたくなる。麻里さんはこの教訓をBさんとの恋愛で思い知ることになる。
今度は、自分の愛情が足りない……
Bさんとの出会いも友人に誘われたテニスだった。ただし、Aさんと別れて半年後ということもあり、麻里さんの気持ちはすぐには盛り上がらなかった。
「歳も歳だし、チャンスは広げたほうがいいと思って付き合ったのです。正直に言えば、彼のことはそれほど好きではありませんでした。もっと自分に愛情をかけてほしいという無言のプレッシャーを感じて、面倒くさい人だなと思ってしまいましたね。
たとえば、デート中に私の気分が悪くなり、『具合が悪いから今日は早めに帰るね』と伝えるとスネちゃう。私に愛情があれば、いろいろ声をかけて彼を安心させられることはわかっていました。でも、気持ちがついていきませんでした」
ここに至って麻里さんは気づく。自分の前でスネまくっているBさんは、かつてAさんからの愛情を十分に感じられずに不機嫌になっていた自分の姿なのだ、と。
人間関係における愛情の量は完全に同じになることはない。どちらかがつねに少しだけ片思いであり、切ない気持ちを抱えているのだ。しかし、自分もしくは相手の愛情が少なすぎる場合は、関係自体が成り立たなくなる。麻里さんは今回も自分から別れを切り出した。エラいぞ、麻里さん。
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