安倍首相は、解散をするべきではなかった 「負けない戦い」の目論見が外れるとき

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狐につままれた群衆を誘導するためであろうか。安倍首相の演説では、解散の理由は、いつの間にか、増税延期の是非から、アベノミクスをこのまま続けていいかどうか、ということに変わっていった。

そこで演説を締めくくったことにより、いざ解散、争点はアベノミクス、と自ら打ち出したのである。増税延期の理論、実は黒田日銀追加緩和も同じ理屈なのだが、現行の経済政策は成功している、経済は基本的に問題はない、しかし、ちょっとだけ黒い雲(蜘蛛?)が出てきたから(原油下落によるインフレ率低下、あるいはGDP増加率マイナス)、万全を期すために、デフレマインド脱却を完全に達成するために、ダメ押しのために、追加緩和、増税延期が必要なのだ、というロジックだったはずだ。

それなら、アベノミクスを続けていいか、と問う必要はない。2年前、4年間の任期の衆議院議員を選ぶ選挙で勝ったのだから、そして、それが、政権運営を任された首相がうまくいっているとおもっているのだから、一部の小さい不安、問題に対処するなら、国民に問うことなく、手早く速やかに掃除をすればいいだけのことなのだ。

2段ロケットを狙ったのか、カオス戦術なのか

こう考えると、私の思考もカオスに陥ってしまうが、やはり、郵政解散のような2段ロケットを狙ったか、局面が相当不利と読んでカオス戦術に出たか、どちらかとなる。

ただ、前者を狙ったとしても、それが実現する確率は低いのではないか。なぜなら、消費税率引き上げの判断を行うための有識者会合では、経済の専門家たちは、いわゆるアベノミクスブレーンと呼ばれる人たちだけが先送りを強く支持し、普通の専門家たちは、増税は延期するべきでないと言ったのだ。そして、前者のグループこそ、アベノミクスが大成功していると主張している人々で、消費税だけが悪いという主張なのだ。

株式市場であれば、この一部の強気の人々が、最後のバブルを作るところであるが、群衆誘導ではそうはいかない。群衆は置いて行かれる場なのであり、行き場に困って戸惑うしかない。

これが選挙中、選挙後の姿となろう。この結果、景気対策の打ち出しに反応して、株式市場は乱高下する展開となるが、実体経済は混乱した流れとなり、景気刺激策の部分を除けばマイナスの影響がもたらされるのではないか。

そして、カオスとは不透明性であり、将来不安ということにもなり、実は、この20年のデフレマインドの根源的な理由であった将来の不透明性、つまり、政治、社会保障制度、雇用、期待生涯所得などにたいする不透明性を、もう一度復活させることになる。

せっかくアベノミクスによるデフレマインド脱却という呪文により、人々の不安を一掃したのに、自ら不安を復活させる戦術に打って出たのは、やはり理解できない。カオス戦術は、私の思考をカオスにすることだけには成功したが、群衆は私ほど素直であるかどうかはわからない。

小幡 績 慶應義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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