「パイプの騎士」の称号を持つ男が語る「粋と野暮」 権力者は変わっても文化は連綿と続いてきた

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:前ね、NHKの番組で旦那と太鼓持ち(幇間〈ほうかん〉・男性芸者)が鍋をつつくシーンが撮りたいと言われて。よし、じゃあうんと粋な格好してやろうと思って、着物(ナリ)はちょっと身幅の詰めた長めのゾロリ。帯は鬼献上の二寸幅にして行ったわけ。そしたらね、太鼓持ちの悠玄亭玉八師匠に「柘さん、粋ですね」って言われちゃって。見たら、同じような格好(なり)してたんだ。

それからはもう、粋がることはやめた。本来は私が「よぉー師匠、粋だね〜」と言わなきゃいけなかった。太鼓持ちを座敷に呼ぶのは客のほうでしょ。粋が身上の幇間の師匠だよ。客であるわれわれは、料亭の設え、芸者衆(げいしゃし)、酒席の粋な空間を愛(め)でる気持ちでいればいい。客はさっぱりと垢抜けたナリでちょっと色気を感じさせること。これが客としての粋な姿ではないかな。下町には「銀流し(みかけだおし)」と言う言葉がある。これは言われたくない言葉だね。

――大人のカッコよさってそういうことかもしれませんね。

:まあでも気づくのが遅かったんだよね、ずっと粋がってたからさ。やっぱり気遣う心はもっていたい。例えば遊びに関してもね、女性から気遣いを受けたら、それを上回る形で返したいものです。若い人たちにもその気持ちは持っていてほしいですね。

その時々の中で、どうやって粋に遊ぶか生きるか

――若い人と接して、世代の移り変わりを感じることはありますか。

:自分たちの若い頃は、はちゃめちゃでしたからね、今の若い人を見てると堅実だなと思う。もうちょっと、はちゃめちゃやってもいいんじゃないかな、とは思うけど、そういうことが許されない社会になってきたのかな。経済的にも、遊ぶお金やコレクションするお金がないという若者が増えていると感じます。少し気の毒かもしれないね。

でもさ、これまでだって戦争があったりで、できない状況はあったんです。生きていかなきゃならない状況の中でも、その中で自分が楽しむ遊びを見つけてきたんですから。政治が悪いとか経済がよくないって言っててもしょうがないよね。その時々の中で、どうやって粋に遊ぶか生きるか、ということじゃないかな。

柘 恭三郎(つげ・きょうざぶろう)
1946年、東京・浅草生まれ。1936年創業のパイプメーカー、柘製作所・代表取締役会長。ドイツにある「タバコ・コレギウム(タバコ学会)」から“世界中に友好の輪を広げた人”として、アジアで唯一、「パイプの騎士」の称号を持つ人物。ほかに、国際パイプクラブ連盟の筆頭副会長。日本パイプクラブ連盟の理事なども務める。パイプコンフェリ会員(フランス・サンクロード市パイプ工業会)、国際パイプ学会会員、日本根付研究会理事など、国際的に活躍。千社札・根付・版画・着物、19世紀のパイプ、マッチラベルなどのコレクターとしても知られる。
柘製作所HP/柘製作所 パイプ・煙管・葉巻・たばこなどの輸入・販売・製造 (tsugepipe.co.jp)
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