「パイプの騎士」の称号を持つ男が語る「粋と野暮」 権力者は変わっても文化は連綿と続いてきた

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――着物を着ることと、日本の文化を大事に思うことはご自身の中でつながっているのでしょうか。

:日本の長い歴史の中で、時の権力者は変わろうが、文化は連綿と続いてきたわけです。権力者が変わるたびに、前の為政者が作り上げたものを否定してしまったら、新しい権力者は統治しやすくなるし、市井の人々の主体性をも喪失させてしまうよね。だからこそ、文化は大切だと思ってます。着物は日本を代表する文化アイテムのひとつだよね。

でも若い頃にはわかっていなかったね。今考えると野暮だった。20歳前後の学生の頃、アルバイトで稼いだお金を貯めては、世界中を旅してまわったんです。学生の貧乏旅行だから、泊まるのはYMCAかユースホステルの相部屋。自然といろいろな国の人と話すことになって、毎晩酒を酌み交わし談笑したのは今でもいい思い出です。

だけど、ニュースなんかが話題になると「あなたは日本人としてどう思っているのだ」と、意見を求められてね。そのときは自分の意見を述べることができなかった。海外に出て初めて、“日本人としての自分の主体性”について考えました。自国の文化を知り、親しむこと、主体性を持って発言することの大切さを痛感した出来事だった。

日本の築き上げた文化の中に、居場所を見つけてほしい

――主体性を持って意見を述べることが得意な日本人は、あまり多くないのかも知れません。自国にいると気づかないという部分もあるかもしれませんね。

:日々の生活の中でも、日本人としての伝統を意識する時間はあると思うんです。例えば、地元の祭礼でもいいし、文化活動に参加するのでも、趣味のコレクションでもいい。僕の生まれ育った街、浅草には三社祭りがあります。浅草の住人にとっての1年は、三社祭りに始まって三社祭りに終わると言っていいほど、みんな楽しみにしている年中行事です。

この祭りを通して、地域社会の結び付きの大事さや相互扶助の精神を、楽しみの中で教えてくれてるんですね。また、おみこしや祭礼のナリ(半纏姿や着物姿)などの江戸時代から続く下町浅草の美意識の中にどっぷりと浸かることで判ることがある。

次ページ長い歴史の中で築き上げた文化に、居場所を見つける
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