そこから、食事の支度、掃除、洗濯など、母に代わってきみえがすべての家事を担うようになった。そんななかでも、このまま独身でいることに危機感を覚えていたので、相談所での婚活を始めることに。しかし、コロナの蔓延によって相談所をいったん休会。年が明けてもコロナは一向におさまる気配がなかったので、退会してしまった。
そして、それから1年が経った。
「どんどんウイルスの変異が出てきて、コロナは終息しない。私も45歳になってしまいました。最初に相談所で婚活を始めたころは、“すぐに相手が見つかったら、もしかしたら子どもも授かれるかもしれない“と思っていた。けれど、今はそうした希望もなくなってきています。歳をとることは止められない。若さを失っていくことによって、諦めないといけないものが出てくるのだと知りました」
「結婚しろ」と言わなくなった老親
子どもは授からなくてもいい。これからの人生をともに歩んでいけるパートナーが欲しい。そう切に思い、もう一度、婚活をしてみようという気持ちになった。
「ただひとつ、2年前にはなかった、大きな問題が出てきているんです」
それは年月とともに老いていく母親の存在だった。
「母は、私が20、30代のころは、姉に続けと言わんばかりに、『誰かいい人はいないの?』と口うるさかったんですね。『お父さんやお母さんは、いつまでも元気じゃないんだから、早くあなたも結婚して、家庭を築いてちょうだい』と。ところが、父が亡くなって、私が一緒に住むようになってから、『結婚しろ』とはピタリと言わなくなりました」
さらに、骨折で入院して体の自由が利かなくなってからというもの、休みの日にきみえが外出しようとすると、いい顔をしなくなった。
「『誰に会いにいくの?』『何時に帰るの?』『お母さんのご飯は、どうなっているの?』と、こと細かく聞いてくる。『私、もう小学生じゃないんだよ』『ご飯は冷蔵庫に入っているから、チンして食べて!』と強い口調で言おうものなら、目に涙を浮かべてしまう。そして、最近は認知(症)が進んできたのか、私が外出しようとすると、それをヒステリックにとがめるようになりました」
自分の体の自由が利いて思考もしっかりしていたときには、独身の子どもの結婚を盛んに心配していた親も、老いてくれば寂しくなる。1人取り残されることに孤独を感じるようになる。老いとともに認知症が進んでいくと、子どもを手放したくなくなる。一緒に暮らしていたいと思うようになるのだ。
これが、老いた親と暮らしている娘や息子の婚活をはばむ要因だ。きみえは、言った。
「母親は、これからどんどん介護の手が必要になっていくと思います。そして、母の人生は、いつ終わるかわからない。あと10年生きるか、15年生きるか。そこに私がどっぷりと付き合っていたら、今度は、私が老人といわれる年になってしまう。今だってパートナーを探すのが大変なのに、60歳を過ぎていたらもっと大変になりますよね」
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