向精神薬の「大量処方」がこんなにもヤバすぎる訳 警告する医師もいるが患者への情報提供は不十分

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向精神薬の多剤併用・大量処方は、国も問題視している。厚生労働省は2014年以降、一定の処方数を超えた場合に診療報酬を引き下げるなどして、多剤処方への歯止めをかけてきた。2018年には、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬や睡眠薬が長期に処方されている場合、診療報酬が減額されることになった。

ただし、こうした規制にも抜け道がある。不安や不眠に関する日本医師会の研修や、精神科薬物療法に関する日本精神神経学会または日本精神科病院協会の研修を受けた医師の処方は、減額の対象外になる。

上條医師によると、睡眠薬は依存性の比較的低い新薬が登場したことで、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬の処方は減っている。だが、「薬物関連事件の警察の捜査に協力しているが、発見された死体の中には、乱用の危険性の高い薬を飲んでいたケースがある」と上條医師は言う。

「依存性の強い人は、『気持ちよく寝たい』と医師に言う。こうした患者に訴えのまま、安易に処方する医師が一部にいる」(上條医師)

上條医師は、自死のトリガーとなりうる薬を安易に処方するべきではないと強調する。

「向精神薬は自死を抑制するための処方であって、逆効果になってはならない」

減薬されずに退院させる

精神科病院に入院中に薬の量を増やされても、多くの患者は減薬されないままに自宅に戻ることになる。

「入院中にパニックを起こせば、薬をいっきに飲ませる。だが、薬は減らされずに退院するので、家で薬を調整するのは難しい」

精神科病院への入退院を繰り返す息子(24歳)について、女性はこう話す。息子は、知的障害とADHD(注意欠陥・多動性障害)の特性がある。19歳のとき深夜にパニックを起こしたことから、精神科病院に措置入院になった。これまでは小児科から向精神薬を処方されていたが、精神科で投与される薬の量の多さに女性は驚いた。

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