自死のトリガーになりうる
うつ病薬や睡眠薬など、脳の中枢神経に作用する向精神薬。その副作用や依存に苦しむ人は多い。日本は、1つの薬ではなく複数の薬を併用する傾向が国際的にみて高いことはかねて指摘されてきた。多剤併用は大量処方にもつながりやすく、治療効果よりも副作用が強まる可能性も高い。
向精神薬の副作用について、患者や家族への情報提供は積極的に進められてはいない。こうした情報を患者に積極的に伝えない理由として、「患者が副作用を恐れて薬を飲まなくなるからだ」と多くの医師は口をそろえる。
埼玉医科大学病院の臨床中毒センターの上條吉人医師は、次のように話す。
「薬の副作用や重要な使用上の注意などについて、本人や家族に伝えるべきだとは思う。ただ、そもそも薬を出す以前に、医者が向精神薬の処方に慎重になるべきだ」
薬物中毒が専門の上條医師は、臨床中毒センターで多くの自殺を図った患者の救急対応をしてきた。上條医師によると、自殺企図患者のうち50~60%が薬中毒の患者で、そのうち最も多いのは病院で処方される向精神薬だ。
上條医師は、「患者は夜間や早朝などに運ばれてくる。患者が飲んでいた処方薬を主治医に聞きたくても、肝心なときに処方した医師は寝ている」と憤る。
「不安を解消している薬のはずが、自死のトリガーにもなりうる。ベンゾジアゼピン系の薬はお酒と似たような作用があり、酩酊して抑制が利かなくなる。もともと自殺念慮がある人が酩酊状態になると、普段ならば抑制されているものが外れ、自死を引き起こす可能性もある」(上條医師)
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