「若者の邪魔」をしてはいけない人口減少社会 年長者は「仕方ねぇなぁ」と待ち続けるしかない

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そのような場所のことを、ぼくは「アジール」と呼んでいます。1時間いくらとか、この場所を利用するために算出される成果を概算しろとか言われない場所。現代のアジールは出たり入ったり、行ったり来たりができる。そんなアジールを維持するためには、嫌だったらすぐに出ていってしまう寅さんのような人間の存在が不可欠です。寅さん的人物は、新自由主義的ないわゆるノマドワーカーとは違います。困っている人がいると「コスト度外視」でつい助けてしまうからです。つまり寅さんは、2つの原理を行ったり来たりして自分だけハッピーという人間ではなく、ある種の格差是正というか、「袖振り合うも他生の縁」を直感できる人でもあります。『手づくりのアジール』でも、ぼくはこんな風に書いています。

『男はつらいよ』の劇中において、日本全国の豊かな自然や消えゆく風景とともに映されるのは、自然の中で生活を営む人びとの姿や、困っている人を「コスト度外視で」助ける寅さんの姿です。寅さんはこの「コスト度外視」という社会の外部に触れるために、故郷と日本全国を行ったり来たりしているといえます。社会の総中流化、標準は、社会の内部が合理的な「水臭い」資本主義的原理によって構築されていく過程です。そこから逃げ出し、「コスト度外視な」世界に触れることで、寅さんは生きる力を取り戻すことができた。でも彼は、その世界の断片を実家にも求めてしまう。その結果、またも大喧嘩の末「水臭いじゃねぇか」という台詞とともに、家を飛び出すことになってしまうのです。(24-25頁)

「仕方ねぇなぁ」と待ち続けること

「コスト度外視」の寅さんのような人間が1人でも多く生きられること。ぼくは現代におけるいちばんの喫緊の課題がこれだと思っています。そのために重要なのが教育です。

『手づくりのアジール』(晶文社)(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

しかしこの教育は学校とか塾とか、そういう既存の社会システムにおいて「教える」ものというものではありません(その部分ももちろんあります)。短期的に見れば常識から外れていたり、いい結果を生まないと思われても、その子の存在を認め、信じて待つことです。信じて待つとは、社会的に成功かどうかではなく、本人にとっての成功が見つかるまで大人が失敗のケツをふくということです。

ぜひ人口増加社会を生きた大人であるという自覚がある方こそ、とらやのおいちゃんのように「バカだねぇ」と言いながら、いつ帰ってくるともわからない寅さんを待ち続ける。寅さんのせいでトラブルがあって、その当事者は出ていってしまっても「仕方ねぇなぁ」といいながら、いつもどおり団子を売り続ける。これが年長者のやるべきことだと思っています。

少なくともぼくはこの過渡期を生きる人間として、そのように生きていきたいと思っています。

青木 真兵 「人文系私設図書館ルチャ・リブロ」キュレーター、古代地中海史研究者、社会福祉士

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あおき しんぺい / Simpei Aoki

1983年生まれ、埼玉県浦和市に育つ。「人文系私設図書館ルチャ・リブロ」キュレーター。古代地中海史(フェニキア・カルタゴ)研究者。博士(文学)。社会福祉士。2014年より実験的ネットラジオ「オムライスラヂオ」の配信をライフワークとしている。2016年より奈良県東吉野村に移住し自宅を私設図書館として開きつつ、現在はユース世代への支援事業に従事しながら執筆活動などを行なっている。著書に『手づくりのアジール──土着の知が生まれるところ』(晶文社)、妻・青木海青子との共著『彼岸の図書館──ぼくたちの「移住」のかたち』(夕書房)、『山學ノオト』シリーズ(エイチアンドエスカンパニー)などがある。

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