「若者の邪魔」をしてはいけない人口減少社会 年長者は「仕方ねぇなぁ」と待ち続けるしかない

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2つの社会の橋渡し

人口減少社会は、今までの人口増加社会と同じ原理では回らない。まさにぼくもそう思っています。そして広井さんの言うとおり、これからの人口減少社会は「自由な社会」なのです。しかしこの自由な社会こそ、明治以降だけでなく、有史以来日本という環境に暮らしてきた人間が経験したことのない状態です。

だからこそ、ぼくはその「ロールモデル」が必要だと思っています。そのロールモデルこそ、映画『男はつらいよ』の主人公車寅次郎(通称寅さん)です。寅さんは人口増加社会において、その同質圧力に抗い続けた人物です(正確には適応できなかっただけなのですが)。

『手づくりのアジール』でもぼくは以下のように書いています。

高度経済成長期を経た一億総中流化とは、社会の原理が統一されていく過程でした。寅さんは故郷という地縁、血縁で成り立っていた有縁の場において、「結婚しなさい」「定職につきなさい」といった、社会のシステムに取り込まれる臭いを感じ取ると、サッと逃げ出してしまいます。一方、自分の腕で稼ぎ、日本全国好きな場所で働いていながらも、宿代がなくなったり、どうしても故郷が恋しくなってしまうと、また戻ってきます。このように「逃げ出す」ことによって、寅さんは社会のシステムの内部と外部という「2つの原理」を行ったり来たりしていたのです。(24頁)

確かに寅さんは一億総中流の社会の原理に適応できず、すぐに逃げ出してしまった「社会不適合者」です。でも現在のように社会のシステムが変わる時期には、むしろその感覚が求められる。つまり1つの社会システムのなかでだけ生きていこうとするのではなく、「む、これは人口増加社会のシステムを押しつけてきているな」と感じたら、すぐに逃げ出す。もしくは真面目に取り合わないことが重要です。

人口増加社会と人口減少社会を実感として区分けすることは難しいですが、数字上は2008年以降減少に転じたとされています。1983年に生まれ、埼玉県浦和市(現さいたま市)で育ったぼくの自意識は、人口増加社会を知らず、かといって完全に人口減少社会に舵を切れるわけではない、中途半端な世代だと思っています。だからこそ、この2つの社会の橋渡しができるのではないかとも感じています。ではこの橋渡しとは具体的に何を指すのでしょうか。

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