白熱する議論の裏で見えぬTPPの「実体」


 菅首相は国内の農業に配慮し、「貿易自由化と農業活性化の両立を図る」と強調。関税撤廃までの10年間で国際競争力をつける政策を検討している。だが、「TPPを慎重に考える会」会長の山田正彦前農林水産相は「両立は不可能」と断言する。「コメの国内市場価格は60キログラム約1万5000円。輸入米は同3000円。いくら競争力を上げても国産を3000円以下にはできない」。

参加の是非問う以前に内容自体の議論が不足

推進派と慎重派の対立の背景には、TPPの具体的内容自体が不透明だという別事情もある。民主党内でTPPへの対応を検討する会合に参加する議員の一人は「TPPについて説明に来る官僚も実はよく理解しておらず、最初と今とではかなり説明内容が異なる」と明かす。

TPPの第3回会合がブルネイで開かれたのは10月初旬。そこでの交渉内容は「伝聞情報」として内閣官房の資料に記載されたが、同議員によると、その資料が出された10月下旬まで内容は不明だった。

TPPの具体的内容に関する情報は依然不足しており、ルール作りがどれほど進捗しているかについても見方が分かれる。経団連・国際経済本部の金原主幸本部長は「ルール作りはこれから。日本は乗り遅れないために早く参加するべき」と話す一方、JA全中の今野正弘農政部長は「TPPはP4協定をベースとしており、協定内容はすでにできあがっている」と正反対の見方を示す。

内閣官房の資料に記された内容も詳細は不明瞭だ。たとえば、資料には、TPPの第3回会合で24の部会が立ち上げられ、政府調達や知的財産権、金融、投資、労働などの分野で議論が進んでいると記されている。前出の議員は「この内容を踏まえると、TPPは単なる輸入関税の話ではなく、より広範なパートナーシップを目指したもの。政府調達や金融分野で門戸開放した際の影響をもっと精査しなければ」と話す。

ここで言う政府調達は、公共事業などの入札も含む。日本は世界貿易機関(WTO)の政府調達協定に参加しており、一定金額以上の公共事業で海外企業を除外できない。だが、TPPの内容次第ではその金額が一段と低くなる可能性があり、「国内の建設業などにも影響が及ぶだろう」と同議員は指摘する。

公共事業でも市場開放を望む声はあり、一概に是非は問えない。が、こうしたTPPの内容の不透明感がさまざまな推測につながっているのは、確かだろう。TPPの議論を進めるにはまず、政府がその内容を明らかにすることが求められる。

(許斐健太 =週刊東洋経済2010年11月13日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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