幸いにして、図書館では成績も付きませんので、インフォーマルな学びの場として期待できます。例えば、同じ本を複数の人たちで読んで意見交換し合う「ブックディスカッション」も一つの手段です。米国では約5000万人がブックディスカッションを楽しんでいるとも言われていて、最近出版される本には、巻末に「ブックディスカッションをする際のおすすめテーマ」が挙げられているんですよ。
私も自分自身でブックディスカッションを企画したりしますが、何が面白いかと言えば、親しい友人で同じ本を読んでも、受け止め方が全く違うことがよくある、ということです。日本では意見のぶつかり合いは歓迎されない面がありますが、本や映画を媒介に互いの視点をやり取りできますので、多角的な物の見方を得るにはうってつけです。
米国の図書館では、親子でのブックディスカッションも企画されています。そういう時はだいたい、軽食が付きます。アメリカ人は飲み食いがないと来ませんし(笑)、合理的な人が多いですから、とりあえずこういう場所に子どもを連れてくればピザを食べさせてもらえるので、家に帰って夕飯を作らなくていい、などと考えるのです。
また、夏休みの企画を増やせば、学校の勉強ではなかなか網羅できないことが学べるという点でも、図書館の可能性を広げると思います。
――菅谷さんが最初の話題提供で指摘した「思考力」「多角的なものの見方」「共感力」「柔軟性」といったものは、一生にわたって必要とされる、言ってみれば「生涯スキル」だと思います。多様な人たちとの学び合いを通じて生涯スキルを養う場として、地域の図書館をもっと活かしていけたらと思わずにはいられません。
菅谷:日本では、図書館というと「無料で本を貸してくれるところ」だと、市民はもちろん、図書館員までそう考えている傾向がまだまだ強いです。でも、米国では図書館での起業支援も活発です。色々なデータベースにアクセスできるので、事業計画をつくったりする時に役立ちます。起業する人が増えれば、納税者が増える。社会保障でお金を投じるよりも、起業支援に費やすことで、一人ひとりをエンパワーして納税者になってもらうという発想が根底にあります。
実際にニューヨークのビジネス図書館を取材していた時に遭遇したのですが、50代ぐらいのおじさんがいつも図書館のパソコンの前に座ってデータベースをいじっていたんですね。気になって話しかけてみたら「僕は無職だったんだけど、この図書館が面白いというので来てみると、色々なデータベースがあるし、パソコンはタダで使えるし素晴らしい。で、僕は競馬に詳しいのでここのデータベースから競馬関連のニュースを集めて競馬ファンにニュースレターを配信する事業を始めたら、今会員が70人ぐらいになったんだよ」と言うのです。日本の感覚で考えると、図書館でそんなことしていいのかしら、と思ったので図書館員の人に聞いてみたのです。すると「それは素晴らしい!これこそが私たちの存在意義です」と。なるほど、と思いましたね。
日本では、以前に比べて雇用が不安定になってきていますし、女性の場合は出産すると仕事を続けにくいという現実があります。高等教育を受けて専門的スキルも高い女性がもったいない、社会全体にとっての損失です。一人ではオフィスを持ちにくいし、情報にもアクセスしにくいところに、図書館が起業支援をしてくれれば、日本の女性たちが子育てをしながら経済活動に参加でき、自己実現を図れるのです。日本国内でも起業支援的なことを始めた図書館も少し出てきましたので、皆さんもぜひ、固定概念を取り払って図書館に「こんな企画をやってほしい」といった提案をしてみていただきたいですね。
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